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場末の馬小屋に舞い降りた天使なのかもしれない。
狭くて殺風景なわたしの部屋に、工藤さんがいる。彼は、小さな折り畳み式のちゃぶ台を前にして、長い足を窮屈そうに折り畳み、あぐらをかいて座っている。がっしりとした肩に厚い胸板はとても均整がとれていて、着古したTシャツもすっごく男っぽくおしゃれに見える。きりっとした眉の下には、切れ長の大きな目。見つめられたら、息が止まりそう。すっと通った綺麗な鼻筋には、ダメダメと思いながらも触れてみたくなる。
日常の世界には場違いなほどの完璧な容姿をもったこの男性が、数ヶ月前、わたしの彼氏になったというんだから、世の中の道理がよくわからない。
工藤さんは、スマホを耳にあて、電話の相手と話しながら、隣りに座るわたしに『ごめん』と言うように視線を送ってきた。
だから、息が止まるから……。
「いーいーいーあのえな、……すたのさかもってらいねじゃ……」
彼はいま、青森の実家のお母さまと話している。青森から電話がかかってくると、突然言葉が切り替わるのが、バイリンガルのようでカッコイイ。さっぱりわからないところが、本当に異国の言葉を話す、王子様のようで。
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