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「……かにな、詩織」
いつの間にか、電話を切った工藤さんがわたしに話しかけていた。
「え?」
「ままくにぐべし」
「……」
いつも、青森からの電話を切った直後は、しばらく言葉がそのままなのだ。
意味はわからないが、何か、わたしに対して答えを求めているのは確かだ。
わたしは「うん」とうなずいた。
工藤さんに対して、否定なんかあるわけない!
すると、工藤さんは、にこにこと笑って、うれしそうにわたしの頭をなでた。
予想外の反応だった。
いつもの工藤さんは、あまり感情を表に出さない。喜んでいても、怒っていても、ほのかに伝わってくるくらいだ。
途端にわたしは申し訳なくなってしまった。意味もわかっていないのに、適当に返事をしてしまったことを後悔した。
「あ、あのね……」
「どうしたの?」
うれしそうな工藤さんを見ると、やっぱり「適当でした」なんて言い出せない。
こうなったら、なんて言われたのか探り出して、本当に工藤さんに喜ばせるしかない。
付き合ってまだ数ヶ月だけど、彼が好きなことは、いくつかわかってきた。
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