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連れていくから
赤く染まった空を、俺らは静かに眺めていた。仰向けに倒れ、これ以上動くことができない。少し離れたところには魔獣の死体が転がっている。
救援は、まだ来ない。
時間がゆっくりと流れていた。
「兄貴、空、綺麗だ」
「そうだな」
「俺ら、頑張ったよね」
「ああ。帰ったら休んで……安心安全な旅行をしよう。いろんなとこ行って。いろんなもん食って。いつもできねぇようなことをしよう」
「……うん。兄貴は、どこ、行きたい?」
「お前が決めろよ。連れていくから。まずどこだ」
「……。じゃあ……海、かな」
「海獣がいない海?」
「そう。普通に泳いだり、海をただ眺めたり、あと、果物食べたり」
「いいな、そういうのも。ほかには?」
「あと、あとは、山。山の空気は澄んでいて、おいしいんだって。景色も綺麗なんだろうな」
「ああ」
「あと、都会とか。人がたくさんいて、いろんな経験ができそう。兄貴は苦手そうだけど」
「お前がいれば、大丈夫だ」
「あと、あと、最後に、兄貴と初めて出会った場所に、行きたい」
息を飲む。お前の声はかすれていた。
俺とお前の出会いの場所。そうだ、あの時から俺の人生は変わったんだ。お前がいたから俺は。
「あに、き」
「ああ……行こう。全部行こう。俺がお前の望み、全部叶えてやるから。だから、だから、
………………死なないでくれ」
その時が近づいていた。喉が絞まる。堪えていた涙が溢れ出てくる。
「兄貴、ありがとう。……俺は、死んでも兄貴といるから、きっと、いるから。だから、俺の分まで、ちゃんと……生きてね」
安らかな顔をして、瞳を閉じたお前は、もう二度と動くことはなかった。
ほどなくして救助部隊が到着。俺も重傷を負っていたが適切な治療を受け、回復していった。
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