連れていくから

1/1
前へ
/4ページ
次へ

連れていくから

 赤く染まった空を、俺らは静かに眺めていた。仰向けに倒れ、これ以上動くことができない。少し離れたところには魔獣の死体が転がっている。  救援は、まだ来ない。  時間がゆっくりと流れていた。 「兄貴、空、綺麗だ」 「そうだな」 「俺ら、頑張ったよね」 「ああ。帰ったら休んで……安心安全な旅行をしよう。いろんなとこ行って。いろんなもん食って。いつもできねぇようなことをしよう」 「……うん。兄貴は、どこ、行きたい?」 「お前が決めろよ。連れていくから。まずどこだ」 「……。じゃあ……海、かな」 「海獣がいない海?」 「そう。普通に泳いだり、海をただ眺めたり、あと、果物食べたり」 「いいな、そういうのも。ほかには?」 「あと、あとは、山。山の空気は澄んでいて、おいしいんだって。景色も綺麗なんだろうな」 「ああ」 「あと、都会とか。人がたくさんいて、いろんな経験ができそう。兄貴は苦手そうだけど」 「お前がいれば、大丈夫だ」 「あと、あと、最後に、兄貴と初めて出会った場所に、行きたい」  息を飲む。お前の声はかすれていた。  俺とお前の出会いの場所。そうだ、あの時から俺の人生は変わったんだ。お前がいたから俺は。 「あに、き」 「ああ……行こう。全部行こう。俺がお前の望み、全部叶えてやるから。だから、だから、 ………………死なないでくれ」  その時が近づいていた。喉が絞まる。堪えていた涙が溢れ出てくる。 「兄貴、ありがとう。……俺は、死んでも兄貴といるから、きっと、いるから。だから、俺の分まで、ちゃんと……生きてね」  安らかな顔をして、瞳を閉じたお前は、もう二度と動くことはなかった。  ほどなくして救助部隊が到着。俺も重傷を負っていたが適切な治療を受け、回復していった。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加