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「爽子。⋯⋯爽子?」
「えっ?あぁ、何?お母さん。」
「どうしたの?ボ〜ッとして。最近仕事が忙しいみたいだけど身体大丈夫?4月になったら落ち着くのよね?あと少しだから頑張って。」
そう言って温かいココアを入れてくれた。
「うん、ありがとう。」
4月か⋯
4月になったら柊也はいないかも知れない。
両手ですっぽりと包んだカップに視線を落とすと目が潤んでくる。
お母さんには柊也の転勤の話をしていないから、仕事が忙しくて疲れているんだろうと心配していた。
ココアをひと口、口に含むとリビングに置いていたスマホが鳴りダイニングから急いで動いてスマホを手に取ると画面には柊也の文字。
「柊也。」
「爽、今どこ?」
「部屋にいるよ。柊也は?」
スマホをタップしながら2階の自分の部屋へと移動してきた。
「お疲れ。俺も今帰って来たとこ。」
「お疲れ様。ご飯は?食べたの?」
「うん、先輩と牛丼食って来た。」
「そっか⋯ 良かった。」
⋯⋯⋯⋯。
「爽、明日なんだけどいつもより一本早い電車に乗れる?」
えっ⋯?
「乗れるけど⋯?」
私がいつも乗っている電車の時間でも就業時間の30分前には会社に着く。
柊也の最寄り駅からは丁度良い時間があって、柊也は毎日10分前くらいに出社していた。
だから、私のいつもの時間の一本前となると⋯
柊也はいつもより大分早い時間に家を出なければいけないことになる。
そのことを言うと
「大丈夫。最近、爽の顔見れてないから。」
そう言って笑う、いつもと違う柊也に私の心臓は破裂しそうに痛かった。
明日は人事異動が正式に全社に発表される日。
私は何も聞かずに
「じゃあ、明日ね?朝から柊也に会えるの嬉しい!」
「ははっ、ちゃんと寝てな。寝坊すんなよ?」
「私は大丈夫だけど、柊也が寝坊しそう。」
「だなっ。でも、明日は絶対大丈夫だから。」
そんな話をしてスマホを置いた。
そして、次の日の朝。
柊也はどこにいるのか言わなかったけど私はいつも通りに、ただ一本早い電車に合わせて家を出た。
快晴でとても気持ちが良い朝で駅までの道にある桜の木の枝には薄いピンクの蕾がいっぱい。
何も考えずに〝平常心、平常心〟と唱えて、駅に着くと改札口に柊也が立っていた。
まさか私の最寄り駅にしかも改札口にいるなんて⋯ ビックリして駆け寄ると
フッと笑い、私の手を取って強く繋いだーー。
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