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カフェを出て繋いでいる手を見つめながらちょっと⋯ 半歩、柊也の後ろを歩く。
この手が直ぐには届かない所へ行ってしまう。
今日が人事異動が開示される日で私のショックを少しでも和らげようと柊也は話してくれた。
〝俺、異動になる〟
予想はしていてもその言葉を聞きたくなかった。
ゆっくり話す時間はなかったから、今後の私たちの付き合いがどうなるのか⋯
柊也の考えはわからない。
「爽、夜ちゃんと話そうな。大丈夫だから。
俺たちは大丈夫。」
柊也はそう言って私の手をギュッと握った。
大丈夫⋯ なのかな?
私は柊也が居なくなるのが怖くて実際に柊也の口からそのことが本当だとわかっても、まだ先のことを考えたり想像するところまで頭が回っていない。
ただ、起こってしまった現実を受け入れるだけ。
「今日、部屋に来てよ。お互い遅くなるかも知れないけど⋯ 金曜日だし。」
私は〝うん〟と頷いてから
会社の一つ手前の信号で止まり手を離した。
会社ビルが見えて我に返った私は少し慌てて手を離したけど、柊也は離したくないようでなかなか離してくれなかった。
何人か同じ部署ではないけど社内で見た事がある社員さんが私たちをチラチラと見ている。
「柊也っ、見られてるよ。」
「見せてんの。」
「えっ!?」
「爽は俺のって見せつけてんの。」
周りに聞こえないように耳元で話す私に柊也は笑いながらそう囁いてから手をやっと離してくれた。
そして、社内の自分の机で人事異動に関する社内メールを開き柊也が東京へ行ってしまうことを知ると、私はPCの画面をなんとも言えない気持ちで眺めていた。
それから、今日一日どんな風に仕事をしていたのかあまり覚えていない。
ただ、昼休みにお母さんへ今日は柊也のとこへ泊まると連絡をした。会社帰りに泊まるなんて初めてのことだ。
年度末の為、忙しくて残業になり急いで柊也の部屋へ向かったけど柊也はまだ帰っていなかった。
恐る恐る部屋の鍵を開けて中へ入ると想像していた荷造りのような物はなく
全くいつもと変わらない部屋に安堵したーー。
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