2024.7.18.12:30:42 東京都渋谷区 iphoneで録画 視聴者より2

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2024.7.18.12:30:42 東京都渋谷区 iphoneで録画 視聴者より2

 (全体的にピンク色で統一されたカフェの中、美礼がスマートフォンを定点に固定してボックス席を映している。テーブルの上には既にケーキやパフェが頼まれている) 「こんにちは~みれぃさん!今日はこんなかわいーカフェにお招きいただきありがとうございますー!きゃー!ホンモノのみれぃさんだー!かわいいー!動画そのままだー!今日のコーデってどこのですかー?超かわいい~!」 「褒めすぎ~!これはGRLの新作かなー!最近までずーっと山でワークマンレディースだったから久々のお洒落で気合入っちゃった!『ゆうこす』ちゃん、今日はみれぃ☆ちゃんねるに来てくれてありがとねー!多分顔はスタンプとかで加工してると思うから安心してー!あ、このオーダーうちのおごりだから!一緒に食べよ!座って座って!」 「え!いいんですかぁ!?わー、メニューもかわいいー!えー、写真撮っていいですかぁ!?」 「いーけどぉ、質問ちゃんと答えてよねー!」 (しばらく、「ゆうこす」こと優華がひとりではしゃぎながら料理と美礼をスマホで撮影する。美礼、しばらくサービスしていたが焦れてきてスプーンで優華のスマホのファインダーを遮る。) 「そろそろ質問いーい?あたしね、あれからちゃんと『ゆうこす』ちゃんの言った通りあの町行ったよー。なんかねー『ゆうこす』ちゃんの言う通りの町だった!wi-fiも町役場が頑張らないと通らないし、畑仕事ばっかりだし、まだ拝み屋さんがいたりするし……それに、あたし見ちゃったんだよねー……あの、『ツキモノ』の家の人!間違えてその人の家のとこまで行っちゃってぇ……チョーびっくりしてパニックになっちゃったぁ!本当に怖い女の人だったよう!『ゆうこす』ちゃんはあの女の人の事、実際に見たことあったの?地元の人はまだ『グズ』『グズ』って呼んでたけどぉ……」 (美礼、ピンクのスムージーを一気飲みして優華の返答を待つ。優華、幼い日の記憶を辿るようなジェスチャーをする) 「えっとぉ、あたしはじいちゃんが消防団ですんごいうるさい人だったからぁ、絶対にグズの小屋には近寄るな!って言われてたんだけど……ちょぉーっとだけ覗いたことあるんだよねぇー……前の質問コーナーだとメンヘラとかキレやすいとか言っちゃったけど、今の代のグズの人は泣いてることが多かったなー。キレたり、っていうのも、たまに金網に体当たりしたり、鶏を食い殺したり、そう言うレベルだったなー……脱走したがってる、お腹減らしてる?て感じだったー」 「えー、こっわーい!あたしが見た時はぁ、泣いてる方の女の人だったんだけどぉ、何でその時お姉さん……グズさん、だっけ。グズさんはそんな怖いことしてたんだろ」 (美礼、深堀りのためにスプーンをびしっ、と優華に向けて尋ねる) 「えー?ニワトリ食べたのは閉じ込められて逃げ出した後だからぁ、お腹減ってたみたいだったなー……体当たりも、出してくれ、出してくれって感じだった……」 「じゃあ、そもそもどうしてグズさんは『グズさん』になったんだろ。小屋に閉じ込められちゃったんだろ」 (難しい顔をして首をひねる優華。アシストするように美礼は更にスプーンを突き付ける) 「あのさぁ、記憶にあったらでいいんだけどぉ、グズさんって誰か同い年の人と揉めなかったぁ?ケガさせたとか、色々言ってたよね?グズさん、家が犬神統でも、何もしなかったら家にいられたかもしれないじゃん?あのね、コラボ相手の人が『誰かが犬神統の被害を訴えないと太夫は犬神統を名指ししない』って言うのね。遥か昔にグズさんの家にそういう難癖をつける人がいたのかもだけどぉ、今のグズさんに何かそういう難癖付けた覚えのある人はいない?『傷つけられた!』トカ、『悪い影響を受けた!』トカ、グズさんのせいにしたがった人ぉ」  (真っ赤なベリーケーキをスプーンでぐしゃ、と潰しながら、美礼はじぃ、と優華を上目遣いで見つめる。詰めの作業だ)  (優華、対照的に思い出そうと目を泳がせている。目の前で溶けかけた白いアイスを掻きまわしている。しばらくうつむいて、押し黙って、そしてようやく押し出すように話し出した) 「あー……思い出しました、今のグズさんが、まだ犬神呼ばわりされてなかった頃なんですけどぉ、うちの村って拝み屋さんが2家いたんですよぉ」 「へぇー?2家?熊井家でなく?」 「やだぁ、あんなヘボい俗物じゃないですよぉ」 (手を振って、カラカラと優華は笑った。熊井家が本当に嫌いらしい) 「『太夫様』は『太夫様』として■■■■流の跡継ぎとして『現人神』としてあたしたちとは引き剥がされて育てられたんですよ。だからあの人は格別。それとは別に、ド田舎らしく『(獣)にお祈りして(獣)を使う拝み屋さん』がいたんですよぉ。皆太ったおうちで、土岐(とき)さん、って苗字でした」 「へぇー。(獣)ねぇ。そういえば。E県といえば(獣)だけど、あの山では全然見なかったなあ。昼間は出ないのかな」 (しばし沈黙。優華が冗談めかして呟く) 「――犬が怖くて、逃げたんじゃないですかぁ?」 「はぇ?犬?あの村に犬なんていないよ……まさか、グズさんのこと?」 (優華が頷く) 「さっきの話なんですけどぉ、土岐さんちにぃ、凄く頭がよくってぇ、吉良川くんとかグズさんのライバルみたいな女の子がいたんですよねぇー……(獣)の巫女さん、って皆は呼んでたんですけど、ただちょっと問題があってぇ、マウント癖がちょっとあるぶりっこだったんですよねー。よく言えばポジティブで村の大人に好かれるんですけどぉー、あたしらみたいな年下から見たら『ぶりっこのお姫様じゃん!』って悪く言われてましたー」 「ふんふん、ぶりっこのサークルの姫ね、それがグズさんのライバルであり拝み屋さんで敵だったんだ?マウントで嫉妬も買いやすかったとか?」 (優華、目を泳がせる) 「ま、まー、そうですね。グズさんはなんだろ、生まれつき肌荒れしやすいおうちなのかな、ちょっと顔がぶつぶつしてて、その巫女さんは、ぽっちゃりしてたけどお肌もつやつやだったりして。グズさんがあんまり喋らなくて、喋ってもボソボソ、ってところなのに、巫女さんはよくしゃべってその場の中心になって、って感じで、いつも知らず知らずのうちにグズさんにマウント取っちゃってたんですよねー」 (優華、体を乗り出す。噂好きの女子の顔になる) 「しかも、おうちのせいなのかな?夢見がちな人で『私には(獣)様がついて守ってくださるんだから!清い存在なの!』『私は(獣)様のお姫様なの!』『(獣)様に守られて家族全員幸せよ!』『(獣)様のご加護で、私が山に登ると風が吹く……』っていつもイタい発言してて、そのうち誰かに嫌な思いさせるんじゃないかなーって子供心に思ってたんですよねー」 「あーね、『誰か』をねー……」 (薄々察し始めた美礼。グズの涙の意味が今更になって重くなってくる) 「でさ、ある日巫女さんが『私、(獣)様のお陰で都会の女子学園に行くことになったの!吉良川君と一緒ね!』とか『お母様大好き!お父様も!』とか、ご両親を亡くした直後のグズさんの前で言っちゃったらしいんだよねー。全部亡くした人の前でそれ言う!?って感じだけどー。もちろんグズさんは怒ったらしいんだけど、巫女さんは巫女さんだから?『嫉妬されても困ります!ご自分の怒りはご自分で制御なさって?』とかトンチキ言ったらしいですよぅ?そしたらもうグズさん溜まったもんじゃないですよね」 「ほんとにね。たまったもんじゃないよ。あたしがグズさんだったら、そんな人間生かしちゃおけない。無邪気だから、子供だから、愛嬌だから、って何でも許されるってあたしは思わない」 「ちょっと、みれぃさん顔怖いですよ~!まあ、本当に怖いこと起きちゃったんですけど……グズさん、巫女さんと口論した後、巫女さんの家に行ったの。 朝早く、獲れたての(獣)の死体を口にくわえて。 『巫女様にお供え物でございます。犬にとっては御馳走でございます』 って言って、(獣)の死体を投げつけて、そのまま逃げ回る巫女さんを捕まえて、首筋に食らいついて(獣)と同じように食い破って殺したとか……」 「その話、誰から聞いたの?」 (美礼、露骨に疑う。あの純朴なグズの様子からは思い浮かばない凄惨な話に悪意を疑う。優華、目を再び泳がせる) 「え~……じいちゃん」 「おじいさん以外から聞いたことはない?」 (与三郎なら悪意を持って話を盛るだろう。真実が知りたい。考え込む優華) 「えー……あ、でも、別の話!途中まで通ってた小学校の先生が言ってました。グズさんは巫女さんを食い殺したんじゃなくて、口論になった日に巫女さんがグズさんに追われて崖から落ちたんだ、って。怒ったグズさんに『汚らわしい!傷ついた!』って言いながら逃げてるのを見た、って先生言ってて、そのまま巫女さんが勝手に崖から落ちたみたいで……」 「なぁにそれ、おじいちゃん冤罪広めてるじゃん」 (再び優華、目を泳がせる) 「まぁ……でも、巫女さんのお葬式の日に、玄関に(獣)の死体を放ったのは本当らしいし、口元を血まみれにして独りで笑うグズさんが見つかったからもうその時から『犬神』にされたんだって。巫女さんのパパとママが、『こいつのせいで娘は死んだ!こいつは人を妬み殺す犬神だ!』って」 「へー……そのパパとママは結局村を出たの?」 「それが、ずーっと犬神を呪い殺すために(獣)様にお祈りしてたらしいんですけどぉ、グズさんを閉じ込めた後なのに次々(獣)さんの像が割れたりって怪現象が続いて、最後はどっちもおかしくなって心中したとか聞きました……家で、巫女さんの位牌を抱いて首吊ってた、って……」 「おうふ……壮絶~……で、それもグズさんのせいにされる、と」 (優華、頷く) 「ま~そうなりますね。グズさんもだいぶん精神不安定でしたし。今で言う思春期だったからかな、あの頃はまだ喋ってたんですけど、ひたすら『ざまあみろ』って土岐家に言ってました。けど、ぶっちゃけ巫女さんの自業自得感はありますね~!あたし小学生でしたけどそれでもウザかったですもん!」 「ゆうこすちゃんにまでいわれるならよっぽどだわ!あたしがそこにいたらタイキックしてやったのにな~!でも、そしたら今のグズさんは冤罪みたいな感じで檻に入ってるわけね……なるほどなるほど……巫女さんもね~、吉良川君の名前とか出さなきゃワンチャン生きてたかもなのに、脳みそまで(獣)の脂肪だったのかね~」 「ちょっとー、それ村の公然の秘密ですからぁー!吉良川君がグズさんの事好きだったって言うのー!今知れたらWINGSの壮馬担にグズさんが殺されちゃう!」 「人間醜すぎるやろマジで!!無意識マウントに冤罪に厄介ファンとかグズさん苦しめられすぎてな、涙が出ちゃう~……!」 (以降、女子同士の雑談が続き、解散となるまで録画が続く) (録画終了)
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