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52.王妃の話し相手
エドワードは即位後すぐにステファニー奪還計画を秘密裡に練り始めた。それで思いついたのが、『王妃の話し相手』を王宮に召し抱えることだった。これにはエドワードの古くからの側近で幼馴染でもあるリチャードが苦言を呈した。リチャードは、前王崩御に伴って引退した父の後任として宰相に就任し、侯爵位も継いでいた。
「陛下、『王妃の話し相手』とは何でしょうか?離宮の件や、貴族派と王家派の対立解消とか、貧困対策とか、優先解決しなくてはならない問題が山積しているのですが」
「リチャード、ここは2人だけだから、前と同じように話してくれ」
「エド、それじゃあ、そうさせてもらうよ。ユージェニー様に話し相手なんてわざわざお膳立てしてあげる必要ないだろう?」
「未だに母国から連れてきた侍女と護衛騎士にべったりで友人ができたようにも見えないから、いいんじゃないかと思って。それに貴族派と王家派からそれぞれ選ぶ予定だから、貴族間の対立解消にも少しは役立つはずだ」
「そのご夫人方の夫達が対立解消に役立つような面々だったら、だけどね」
「家門の中では重要な分家でも、今は経済的に落ちぶれつつあるような家の夫人を候補者にしようと思っている。そんな状態なら、王家に取り立てられて恩を感じるだろう?」
「そういう家の夫人をリストアップしろってこと?」
「ああ、頼む。ユージェニーと同年代でその条件に合う既婚女性を高位、中位、下位貴族からそれぞれ最低4人ずつ、貴族派と王家派の両方からなるべく同人数リストアップしてくれ。家門の政治的なスタンスや、夫や他の家族との仲は良好か、子供がいるか、領地にずっと居住しているのか、タウンハウスを所有しているのかなど、家庭環境も調べてほしい」
「で、何を企んでいる?」
「夫人を通した当主達との交流だよ。私も候補者の夫には会うつもりだからね」
「それだけじゃないだろう?まさかこれでステファニーを呼ぶつもりじゃないだろうな?こんなこと考える暇があったら、本当に優先事項の対策を考えてほしい。こんなことでユージェニー様の兄上の機嫌を損ねたら、王都の治安も悪化しているし、危ないぞ」
「大丈夫だよ。貴族の対立の解消策も貧困対策も考えているから」
「わかっていると思うけど、ステファニー様は候補に入れないよ」
「いや、彼女は条件に合うだろう?候補に入れておいてくれ」
「・・・だめだよ」
「お前がだめだと言っても僕が候補に入れるまでだ」
「・・・こうと決めたら本当に頑固だな。俺も頑固だから、彼女の現在の状況は調べない」
「いいよ、影に調べさせるまでだ」
「俺は警告したぞ。お前の場合、夫婦の問題で済まなくなるんだ」
「わかってる。気を付けるよ」
「それに既婚女性を集めるよりも側妃候補を集める方が重要じゃないか?お前達は結婚5年経っても子供がいないし、不仲も有名だから、自分や親戚の娘を側妃に押し込もうとする貴族がうじゃうじゃ出てきているぞ」
「側妃はまだ考えたくない」
「このままじゃ、大公閣下の孫息子を養子にとるようにさせられるかもしれないぞ。大公閣下は欲のないお方だけど、娘夫婦のほうは権力欲が半端ないから気を付けないと」
「わかってる。そっちのほうもなんとか対策するよ」
「・・・はぁ・・・『わかってる』で済めば楽なもんだよ・・・」
ため息をつきながら、リチャードは退出の挨拶をして執務室を出て行った。
『王妃の話し相手』など、ウィリアムが生きていたら絶対に許さなかったに違いない。王太后メラニーは夫に守られて夫をたてる古き良き価値観を持つ女性なので、息子の暴走を止められない。妃のユージェニーは、エドワードを仕事上のパートナーと見なしていても、彼の業務にほとんど口を挟んでいなかった。
それから1週間後、リチャードはきっちり『王妃の話し相手』候補になりそうな夫人達のリストをエドワードに提出してきた。リチャードが事前に宣言した通り、調査結果にはステファニーは入っていなかったが、エドワードはステファニーのことを王家の影に既に調査させていた。第二子出産後、エイダンとステファニーの夫婦仲は良好だという報告を受け、ステファニーをエイダンから引き離して『王妃の話し相手』として王宮に召し抱えようという考えをますます強めた。
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