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54.夫と元婚約者
エイダンは隣の領地のトパルキア子爵に呼ばれて泊りがけで出かけた。アンヌス伯爵家本邸からトパルキア子爵の本邸まで馬車で片道半日かかる。トパルキア子爵は20代後半の穏やかな男性で、エイダンも会ったことはあるが、お互い代替わりしてからあまり付き合いがなくなったので、なぜ招待されたのか不思議だった。
トパルキア子爵家は、王都で見る石造りやレンガ造りのタウンハウスと違って壁がカラフルに黄色く塗られた木組みの家だったが、領主の家らしくそれなりに大きな家だった。その家の前に無紋章ではあるが、来客のものと思われる立派な黒塗りの馬車が停まっていた。エイダンは、約束の時間まで間もないのに他に重要な来客があるのかと不思議に思った。
エイダンは応接室に通されると、ソファに座っている意外な人物に気付いて驚いた。
「久しぶりだな、アンヌス伯爵」
「陛下?!・・・失礼しました。お久しぶりでございます。覚えていただいて光栄です」
ソファに座っていたのは、国王エドワードで、その背後には護衛騎士が控えていた。エイダンがエドワードと言葉を交わすのは、ステファニーと結婚するようにという王命を賜った時以来だった。
「我が王妃と同世代の既婚夫人を話し相手として非常勤で王宮に召し上げることになった。こちらのトパルキア子爵夫人と君の奥方も候補に選ばれた。まもなく選考会を兼ねるお茶会の招待状が候補のご夫人方に届けられる」
「そ、それは王命なのでしょうか?」
「いや、招待だ。でもトパルキア子爵夫妻には夫人がお茶会に来ることに了解をいただいた。ドレスと旅費は王家で負担するので、心配しなくてよい。もし話し相手として採用されることになったら、王宮に部屋を用意するので、住む場所も無料で確保される予定だ」
「・・・恐れながら、お茶会は半ば強制のようなものではないでしょうか?断る権利はないのでしょうか?」
エイダンは王宮に部屋が用意されるという話に不安を一層募らせ、不敬だと非難するような護衛騎士達の視線を承知で断ろうとした。
「『王妃の話し相手』は非常勤だが、給料も出る。奥方に意向を聞いてくれ。よい返事がもらえるとうれしい」
「ですが・・・」
「何も臣下の妻を愛人にしようって言うんじゃないから、心配はいらない」
「えっ?!あっ!失礼いたしました」
まさに心配していたことを逆に国王のほうから言われてエイダンは焦ってしまった。
「冗談だよ。都合がつくご主人方もお茶会と同じ日に登城してもらって私達と男性同士で親交を深めるのもいいと思っているんだ」
エドワードは微笑んでいたが、エイダンには貼り付けたような微笑みにしか見えず、彼のどろりと濁った青い瞳にもそこはかとなく寒気を感じた。
その後、エドワード達は他の候補達の夫を訪ねるということでトパルキア子爵家をすぐに辞して行った。
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