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55.招待状
エイダンがエドワードに会ってからまもなく、お茶会の招待状が『王妃の話し相手』候補者達に送られ、アンヌス伯爵家にも届いた。封蝋ですぐに王家からの手紙とわかり、執事が恭しくステファニーに手渡した。
ステファニーは『王妃の話し相手』の候補者に選ばれたと知って困惑した。『王妃の話し相手』として王妃と関わると、エドワードとも偶然会うこともあるかもしれない。ステファニーは、エドワードを忘れられないという気持ちをエイダンに告白してその気持ちをまだ撤回していない。何よりまだそれは本当の気持ちである。なのにこの招待を受けるとエイダンが傷ついたり、心配したりするのではないか。でもせっかく本当の夫婦になれた以上、ステファニーはエイダンに隠し事をするつもりはなかった。
「私宛に王家から手紙が来ました。王妃陛下がお話相手をお探しになっていて、候補のご夫人方をお茶会に招待するそうです」
「ああ、そのことだったら私宛にも王家から手紙が来た」
王家は当主宛にも手紙を出していた。そこには夫人が『王妃の話し相手』候補に選ばれたことと、選抜を兼ねたお茶会を王妃が開催するので夫人を招待したいことが記されていた。
「侍女みたいに常勤ではないけど、王宮にお部屋を賜って年に何回か数週間滞在してお勤めするそうです」
「私は反対だ。辞退してもいいって書いてあるから、辞退してくれ。それに二コラはまだ幼い。年に何回もそんなに長期間母親が離れたらかわいそうだろう?」
「それを言うならアーサーはどうなるのです?私のせいで不憫なことをしました。でも本邸に引き取ってあの子を受けいれられるか自信がありません。物心ついてから母親に拒否されるぐらいなら別邸で育てられるほうが幸せでしょう。それを思ったら、年数回、数週間離れるぐらい二コラに我慢してもらってもいいではないですか」
「どうしてそんなにまでして王妃陛下の話し相手になりたいんだ?国王陛下に会いたいからなのか?!」
エイダンは嫉妬で自分を抑えられなくなりそうになった。
「非常勤なのに常勤の上級侍女と同じ給料をもらえるのよ。家計の助けになるでしょう?」
「君の稼ぎに頼らなければならないほど、まだ我が家は落ちぶれていない!」
「でもアーサーの家と養育費用は全部公爵家の負担ではないですか。お兄様に代替わりしたらお義姉様の手前、さすがにそこまで援助してもらいづらくなります。すぐにそうなるわけではないですが、備えは必要だと思うのです。だけどエスター様達を別邸から追い出すわけにはいかないし、エスター様達とアーサーを一緒に住ませるのは気が進みません」
それを言われるとエイダンも何も言えなくなってお茶会に参加するのを渋々許すしかなくなった。元々、エスターのための別邸費用がなければアーサーの別邸費用も自己負担できたはずなので、エイダンの分が悪かった。
「エイダン、心配しないで。私はもう貴方の妻だし、陛下にもユージェニー様がいるのよ」
ステファニーの微笑みを見てエイダンは無理矢理、不安に蓋をした。
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