80.王宮脱出

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80.王宮脱出

ユージェニーがエドワードと話し合ってから4日後の早朝、脱出のチャンスができた。護衛当番の近衛騎士の中で1人だけソヌスの味方に引き入れていない者がいたが、彼には睡眠薬入りのお茶を飲ませて眠らせた。 離婚申請書と王妃の指輪は、当初の予定通り、ユージェニー一行がソヌス王国に入国した後、王宮に残すソヌスの影がエドワードの執務室の机の上に置いていく。それ以外のユージェニーの味方は全員同時に王宮を脱出することになった。残った影はルクス王国の諜報活動を引き続き行う。 ユージェニーは脱出前の晩に髪の毛を茶色に脱色してあった。ジャンが味方でない騎士に睡眠薬入りのお茶を飲ませている間にユージェニーは侍女のお仕着せに着替え、変装が完了した。騎士が眠り込むとすぐにミッシェル、ジャン、護衛当番だった味方の騎士達と王宮の使用人口へ急いだ。まだ夜勤が明ける前の早朝だということもあって、王宮で行き交う使用人が少なくて助かった。 王宮の使用人口の門の外では、時間的に少し早いがもう夜勤明けの使用人達を待つ辻馬車が何台か待っていた。そのうちの2台と馬2頭がユージェニー達の手配したものだ。1台目にユージェニーとミッシェル、ジャンが乗り、2台目には侍女と護衛騎士、残り2人の騎士が騎乗で出発した。御者は辻馬車の御者に扮しているが、2人ともソヌスの影である。旅に必要な荷物は事前に少しずつ王宮から運び出して辻馬車の座席の下に隠してあった。 辻馬車では王家の馬車のようなふかふかのクッションは望めもしない。出発までの短期間では馬車の改造が間に合わなかったので、間に合わせでクッションを座面に敷いていたが、王都を出る前に既にユージェニーは腰が痛くなってきた。辻馬車2台は少し離れて走り、平民街の裏通りへ入って行った。騎馬は裏通りでは目立つので王都の城門外で落ち合うことになった。 ユージェニー達は辻馬車から降りて1軒の民家の前に立った。ノックの後、ミッシェルが扉に向かって『りんごのおすそ分けに来ました』と言うと、一行は家の中に入れた。民家はソヌス王国の影が城下で工作活動をする時の拠点の一つである。拠点は1軒に固定せず、状況によって移動したり、放棄したりして、合言葉も定期的に変えていた。 侍女のお仕着せや騎士の制服は王宮外では目立つので、全員、平民の着る普段着に着替えた。休憩もそこそこに一行はすぐに辻馬車で王都の外へ向けて出発した。王都の門外に出ると、平民街で別れた騎士達が平民の普段着を纏い、馬と共に待っていた。 その後、一行は街道沿いに進み、夕方になると宿に泊まった。普通の旅人が利用する宿なので、ユージェニーのような高貴な育ちの人間にとってあまり居心地のよい部屋ではなかったが、国境を無事に超えることに比べれば、宿や食事が粗末だとか、毎日入浴できないとか、ユージェニーには些末な問題のように思えた。 王都を離れるにつれ、旅人が少なくなり、馬車2台と騎乗した騎士2人からなる一行は目立つようになった。馬車1台と騎乗した騎士1人ずつに分かれ、ソヌス王国の王都で落ち合うことになった。ユージェニーにはもちろんミッシェルとジャンが同行し、もう一人騎馬の騎士も従い、国境へ向かった。
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