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ミョージャのことを考えると、展開が読めず少し怖かったが、この問題もいずれ解決しなければならないことだ。俺は実家の屋敷に帰ってみることにした。
屋敷に帰る知らせを送ってから帰ったのだが、いつもなら真っ先に出迎えてくれるはずのミョージャは、今回ばかりは出迎えてくれなかった。屋敷の中のどこかに点在する、とてつもない不穏な空気を察知せずにはいられなかった。
一方でソーナとアロンゾは、俺をあたたかく迎えいれてくれた。
「晩ご飯は食べていく? それとも大丈夫?」
「食べていきなよ!」
「ごめんな、アロンゾ。食べていきたい用事はあるのだが、これから帰って修練をしなければならないからな」
真っ赤な嘘である。本当はできる限りミョージャに会いたくないからだ。気まずいし、どんな態度を取ったらいいのかわからない。謝ればいいのかもわからなければ、事情を説明して弁解すればいいのかどうかもわからない。もっとも、そもそも俺に「あのこと」を弁解する資格なんかあるのかどうかも、わからない。
「えー、じゃあ兄ちゃん、どうして帰ってきたんだよ」
「こーら。アロンゾ。お兄さんにそんな言い方はないでしょう。家にある剣を見にきたのよね、パオロ?」
「はい、そうです。我がバレンシア家は代々皇帝に使える騎士の家系。立派なものがあるかと思いまして」
「あるわよ〜。でも、パオロ。貴方今、騎士って言ったわよね。騎士道の美徳をしっかり胸に刻んでいないと、渡せないわ」
「騎士道の美徳、ですか」
「あーら。忘れたの? 忠誠、真実、忍耐、寛容、良識、謙虚、慈悲の5つよ。貴方はちゃんと守れているかしら」
「神に誓って、守れております」
「わかったわ。剣庫の鍵はミョージャに渡しているから、ミョージャから受け取ってね。あら、そうだわ。ミョージャにも確認してみるといいわ。貴方が騎士の美徳を忘れてないか」
ソーナは微笑んだ。俺にはそれが、悪魔の微笑みに見えた。ソーナは、すべて知っているのだ。知った上でのこの対応。恐ろしすぎません?
俺はミョージャを探した。ミョージャは、廊下を掃除していた。俺の姿を見つけると、よそよそしそうに会釈をした。
あー、なるほど。その感じできましたか。いっちばん難しい感じですね…。でも、とりあえず話しかけてみるしかない。
「ミョージャ。こないだは…」
「あ、はい。勝手に失礼してしまい、申し訳ございませんでした」
ミョージャは当てこすりのように大袈裟に頭を下げて見せた。いやいや、やめようよ。そういうの。
「いや。あれはたまたま、誤解で」
やばい。しどろもどろでこれじゃあ何を言っているか伝わらない。
「たまたま? 誇り高きバレンシア家の当主、パオロ・バレンシア様はたまたまで女性と抱き合ったりするのですか? あーいやらしい!」
あー、言っちゃった。
「違う。俺はミョージャのことを1番に…」
「やめて! 言わないで!」
ミョージャは汚いモノでも見るかのように、俺に険しい視線を送りつけながら、後退りをする。
「どうして、ちょっと」
後退りをするミョージャの手を引こうとすると、思い切り拒絶された。
「やめて! 触らないで! けがらわしい!」
ミョージャは顔を両手で覆いながら、掃除用具を全部ほっぽり投げて、逃げ出していった。
俺には追うこともできなかった。
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