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「父上殿、お話とはどのようなものでしょうか。進路の話と申されましても、私には見当がつきません」
それはそうだ。こんな訳の分からないマイナーなアニメのストーリーなんて、知る由もない。さらには俺の属するバレンシア家は分家。分家から這い上がる的なストーリーなのかもしれないが、恐らく違うだろう。脇役の人生をなぞって生きていかなければならないなんて、あまりに苦痛だ。
まあいいだろう。現実にいた時よりは脇役の人生でも100倍マシなのだから。
「おい! パオロ! 聞いているのか? それともなんだ、まだ身体の具合が優れないのか?」
「あ、いえ! 申し訳ございません」
「パオロ、お前はこの春からギルバート帝国学院への入学が決まっておる」
「はい、父上殿」
知らねーっつうの。勝手に人の進路を決めるなってか、ギルバートってなんだよ。
「お前は何を専攻するのだ」
「は?」
「聞こえなかったのだな? ではもう一度聞く。ギルバート帝国学院ににおいて、お前は何を専攻する気でいるのだ」
「あ、ええっと」
俺が答えに臆していると、おやじ、いや、父親のロベルトはこれ見よがしにため息をついた。
「我々バレンシア家は先祖代々から続く、由緒正しき騎士の家系である」
ロベルトは胸を張り、声を張り上げた。その佇まいから威厳が感じられた。俺はこの時、ロベルトに現実世界の自分の親父の姿を重ね合わせた。全身から鳥肌が立つ。
「はい、父上殿。私もギルバート帝国学院で剣術を学びたいと考えております。そして近い将来、バレンシア家の当主として恥のないよう、一所懸命皇帝様に仕える所存でございます」
「うん」
ロベルトは嬉しそうに、そして満足そうに頷いた。現実で親父のこんな顔見たことなかったので、俺は素直に嬉しかった。って、親父とロベルトは別人か。
「パオロ。お前はバレンシア家嫡子として申し分のない度胸の持ち主だ」
「といいますと?」
「ハッハッハ。実はな、剣術科では決闘の必須科目があるだろう。それで命を落とすかもしれぬことに怖気付くのではないかと思ってな、いや、疑ったわけではないのだが」
ロベルトは咳払いをした。
は? え、いやいや、咳払いとかじゃなくて、ちゃんと説明しろよ。命を落とす? 何のことですかー? もしかして俺、異世界の学校で死ぬかもしれないってこと? おいおい…。
嘘だろ。せっかく引きこもり生活から脱却できたってのに。
でもここまで来たら、覚悟を決めるしかない。ていうか、この人の前で魔術行きますとか言ったら殺されそうな空気がある。仕方ない。
「父上殿。ご冗談を。私は命をかけてでも、ギルバート帝国学院剣術科を首席で卒業してご覧に入れます。そして立派な騎士になります」
「そうだパオロ、よく言った! それでこそ私の息子というものだ。よし、お前のことだ。心配はしておらん。大いに頑張ってくれたまえ!」
「はい! 頑張ります!」
ロベルトの部屋を出ると、これまたさっきとは別の大名行列とバッティングした。さらに、さっきとはまた別の派手な服を着た、今度は男がいる。金髪で長身の、結構なイケメンだ。多分こいつがバルドナード家のルイスだろう。
やがてルイスと思しき男は列から飛び出し、俺の前に出てきた。
「盗み聞きしてすまない。君のお父様に用事があったものでね」
「どうも」
お辞儀でもして立ち去ろうとすると、背後から声をかけられた。
「君、名前なんて言ったっけ?」
「パオロ・バレンシアです」
いけすかねえ野郎だ。分家の人間は名前すら覚える必要がないってか。だけれど相手は本家のバルドナードの嫡子。むげにするわけには絶対にいかない。
「じゃあ仲間だね」
「えっ」
「僕も入学するんだよ。ギルバート帝国学院。しかも剣術科にね」
「あっ」
こういう時、なんて返したらいいんだろう。自分の現実世界時代からのコミュ障という特性を、この時ほど憎んだことはない。
「決闘の試験あるの、わかるよね?」
「は、はい。い、一応、話には聞いておりますが」
「なら話は早い」
ルイスは一旦息を吐いた。そして次のように言い放った。
「僕はそこで、絶対に君を殺す」
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