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カバジ・ジャコフに案内されながら、俺達はバルドナード邸の豪華で広大な廊下を歩き続けた。これから一家の命運を左右する一大イベントがあるというのに、さすがはロベルト。あくまで彼は堂々としている。さすがはロベルト・バレンシアだ。俺は一応パオロ・バレンシアではあるのだが、肝心の中身がパオロ・バレンシアでもなんでもなく、ただの40の引きニートオッサンなので、とにかく気が小さい。そのため、こういう非日常的な場面で、堂々と振る舞うことができない。あー、すげえっす、父上殿。大いに尊敬しやす。
そんな俺の心を読んでいたかのように、急にカバジ・ジャコフは振り返って、不思議そうに俺の顔を覗きこんだ。
「これはこれは、いかがなさいましたか、パオロ・バレンシア様。お手洗いならこちらに…」
「いえ。なんでも」
「そうでしたか、それは大変なる失礼を」
そう言って深く頭を下げる。そんなに申し訳なさそうにされると、なんだかこっちまでいたたまれなくなってくる。
どぎまぎした俺を見て、カバジ・ジャコフはほっほっほと、高らかに笑った。そして何事もなかったかのように俺達の先頭を歩き出した。やべえ、こいつは情緒不安定なのか? そんな考えが頭をよぎるが、この老人の不気味さは、そんな簡単な言葉では語れない気がした。
カバジ・ジャコフはやがてひとつの部屋の前で立ち止まると、コンコン、と上品にドアをノックした。するとドアは勝手に開いた。俺達は先日よりも少し狭い部屋に案内された。
俺は部屋の中を見回した。すると、衝撃的な人物がいた。ドーニャだった。どうしてだろう。彼女は、バルドナード本家の人間でもなければ、分家の人間でもない。言ってみれば、一族の人間ではないのだ。
ドーニャは俺を見ると、恥ずかしそうに顔を赤らめた。ん? どういうことだ? 意味がわからない。でも美しい。ミョージャとは系統の違い顔だ。
「ンハハハハハ!」
急に、ロイド・バルドナードは高らかに笑い出した。
「そんなにこの可愛らしい娘が気になるかね? パオロ・バレンシア、いや、パオロ・バルドナードよ」
ヤバい。すげー威圧感。これで容姿の件、断ったりしたら冗談抜きで殺されそう。
俺が何も答えられないでいると、ロベルトがロイドの前に進み出た。そして言った。
「ロイド様、この度は息子の罪をお許しいただき…」
「なあに。罪なんてワシはちっとも思っとらんよ」
ロイドが被せて言う。圧が凄い。しかしそれでも我が父、ロベルト・バレンシアは負けじと再び口を開いた。
「そして今回、我が息子であるパオロを、バルドナード様のお家に迎え入れて頂く旨のご提案、誠に感謝申し上げます」
今度はロベルトがしまいまで言い切ると、本題な入ったことが嬉しかったのか、ロイドはにんまりと笑った。
「ンハハハ! 礼には及ばん」
「このご提案、大変ありがたくは存じますが…」
「ロベルト・バレンシアよ!」
再びロイドはロベルトの話を遮った。それも物凄い勢いで。ここまでくるとただのせっかちジジイだ。まあ、そんなことは口が裂けても言えないけど。
「私が飼い慣らしたオーガはなかなかのもんじゃっただろ? 他にも沢山飼っておるぞ。オーガの100倍はくだらない強さの魔物もな」
!!!!!
どういうわけかわからないが、ロイドは会話から何から、すべてを知っている。知った上で、ロベルトを脅しているのだ。
これにはさすがのロベルトも、何も言い返せなかった。
「そう言うことじゃ。まあ、確かに。すぐに養子になれというのは酷じゃったな。よかろう。1日だけ猶予をやろう。明日また、ここに来い。そしてパオロ・バレンシア。お前はバルドナード家の人間になれ。そうでないと」
ロイドは言葉をためた。しかし、ためなくても言うことはわかっていた。
「バレンシア一家、皆殺しじゃ」
バルドナード邸の大きな会議室に、ロイドの笑い声が響き渡っていた。
ー続くー
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