100人が本棚に入れています
本棚に追加
会議室を後にしようとすると、俺のことを呼び止める者があった。それはドーニャだった。
あー、びっくらこいた。心臓止まるかと思ったんですけど。
「お待ちください! パオロ・バレンシア」
「いかがなさいましたか、ドーニャ」
「ちょっとわたくし、貴方にお話がありますの…!」
こうして俺は1人バルドナード邸に残り、別室に案内され、ドーニャと2人きりで話をすることになった。ヤバい、物凄く緊張する。
席に着くと、ドーニャはじっと俺の目を見つめ始めた。俺の鼓動は高鳴る一方である。ドーニャのあまりの美しさに、俺は彼女の方に視線をやることすら、なかなかできなかった。
「わたくし、ひと目見た時から、貴方に恋しておりますの」
さらりと言ってのけた。えええ!? 何言ってるんですかいきなり!? 40のオッサン、いきなりそんなこと言われたら困っちゃうんですけど!
「言いたいことが言えてよかったですわ、時間を取らせてしまってごめんあそばせ」
ドーニャとの面談は、これだけで終わり、俺はカバジ・ジャコフに追い出されるように、バルドナード邸の出口まできていた。ロベルトはひと足先に帰ってしまったようである。
「しばらくお会いできなくなるのが残念です。パオロ・バレンシア様」
ん? 何を言い出すんだ、このジジイ。このジジイもさっきの場にいたよな? 話聞いてなかったのか? ははーん。さては、居眠りこいてやがったんだな、ったく、引退させろこんなジジイ。ボケてんだろうが。
「フォッフォッ。聞き捨てなりませんな。パオロ・バレンシア様。わたくしは居眠りもしておりませんし、ボケてもおりませんので、引退は致しませぬ」
そう言って、不適な笑みを浮かべるカバジ・ジャコフ。おいおい、マジか。このジジイ、人の心を読んでやがる。只者じゃねーな。
カバジ・ジャコフ様、凄いっす! 尊敬するっす! なんつって。
「わたくしめなんかを尊敬することはございませぬぞ。さあ、お気をつけてお帰りなさいませ」
俺との会話を強制終了させるかのように、カバジ・ジャコフは、地面に頭がくっつきそうになるくらい、深くお辞儀をした。身体が柔らかい。俺は、とりあえず帰るしかなくなった。
明日またこのバルドナード邸に足を運ばなければならないと思うと、憂鬱だった。が、しかし、カバジ・ジャコフの言った通り、翌日、俺はバルドナード邸に行く必要がなくなった。
ドーニャが首を吊って自殺したというので、それどころではなくなったのである。
俺の頭は混乱し、脳内にクエスチョンマークがいくつも浮かんだ。いったいぜんたい、どういうことなんだろう。何が起こっているんだろう。
ー続くー
最初のコメントを投稿しよう!