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ドーニャを亡くした悲しみは、深かった。あまりに深かった。ドーニャの愛の告白は、俺にとって何を意味していたのだろうか。
バレンシア家でも、祈りを捧げた。ロベルトもソーナも、アロンゾも、関係のないミョージャまでもが、悲しみに暮れた。
「あんないい娘がどうして…!」
ソーナは、悲痛の叫びをあげた。ロベルトはソーナを肩を抱いた。ソーナ越しに俺と目が合う。その瞳は、俺に何かを伝えたいように見えた。ごめん、親父、いや、父上殿。何を伝えたいのか、俺にはわからない。本当の父親とも意思疎通できない俺が、転生先でできるわけなどなかった。普段からやっていないことを大事な場面でのみできるほど、甘くはないのだ。
「ソーナ、アロンゾ、ミョージャ。ちょっと外してくれ。パオロと話したいことがある」
「はい」
3人は揃って返事をし、部屋を出ていった。
「パオロ。今回、メンデス家のお嬢さんが亡くなった件だが」
「はい、父上殿」
「はっきり言う。自殺ではない。他殺だ」
「えっ」
昨日の、カバジ・ジャコフの言葉が頭をよぎった。そうか、あいつはすべてを知ってやがったのか。そう考えると、ひょっとしたらドーニャはあの時、自分の身を案じていたのかもしれない。だから俺に縋ろうとした。きっとそうだ。いや絶対そうだ。胸が痛い。締めつけられる。俺は…。俺は、どうすればよかったんだ…!
「犯人は知らん。だが、ロイド・バルドナードの差し金であることは間違いないだろう」
「くっ…! あ、あいつ!」
「目的はひとつ。奴は私達を潰すという方向にシフトしだしたということだ」
「それはどういうことでしょうか」
「簡単だ。私達のどこかに気に入らないポイントを見つけたんだろう。だから、1日の猶予なんて、待つ必要がなくなった。そして恐らく、この罪をお前に着せてくるだろう。バレンシア家殲滅の口実を作るためにな」
「そんな…!」
嘘だろ…。俺、殺人の容疑を着せられそうになってるってこと?
やばいやばい。考えていると、額から大粒の汗が出てくる。
それを見て、ロベルトは笑った。
「ははは、怖気付くな。私が行って、話をつけてくるから安心しろ。お前に対して罪を着せようとしているなら、やめさせる。埒があかないようなら、闘う。恐らく、生きて帰ってはこれないだろう」
やめてくれ! 俺はこれ以上、大切な人間を失いたくない…!ってあれ、口から言葉が出てこない。それどころか、体も動かない。
ロベルトが金縛りをかけているのだ…! 1人で行って、勝てるわけない! やめてくれ! 俺も…! 俺も行きたい! ロベルトを守りたい!
「でも、お前、今くらいの頑張りがあれば、これから先も大丈夫だ。私がいなくても頑張れよ、洋平」
え? え? え? 「洋平」は、俺の現実世界での名前だった。ってことはやっぱり…!
声も出ないし、体も動かないのに、涙だけがとめどなく流れてくる。
親父!
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