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金縛りが解けるとすぐに、俺はロベルトいや、親父の部屋を飛び出した。するとそこにはソーナがいた。
「母上殿、私は急いでおりますゆえ、失礼します」
「お待ちなさい」
ソーナは俺を呼び止める。事情がわからないだろうから仕方ないのだが、俺は早く親父を助けに行かなければならない。
「パオロ。だいぶ冷静さを失っているようね」
ソーナもなんとなく空気を読んだのか、早口で続ける。
「ロベルトさんとあなたとの関係には、私にはわからない、何か特別なものが存在しているように見えるわ」
「いえ…。そんなことは」
「わからないのは寂しいけれど、男同士の関係だものね。ただ、ひとつ言えることがあるわ」
「何ですか、母上殿」
「自分を大事にすることよ。お父様のことも大事だけどね。まずは自分。わかった?」
「はい!」
俺は急いで屋敷を飛び出した。すると背後から甲高い呼び声が聞こえる。振り向くと、そこにはミョージャが立っていた。
「パオロ様、待ってくださーい!」
いや待てない。断じて待てない。無視していこうかとも思ったが、さすがにそれはやめておいた。ミョージャは俺に追いつくとばんっと、俺の両肩に勢いよく手を置いた。なんだなんだ? いったいぜんたい、どういうつもりだ?
「肩の力を抜いていきましょう!」
「ん、それはそうだが。でも急いでいるんだ」
「パオロ様!」
被せて言う。いちいち大きな声を出すもんだから、耳が痛い。
!!!
なんと、ミョージャは俺の手を掴み、自分の胸に押しつけた。齢40にして、初めての感触。こんな時なのにもかかわらず、俺は不思議な感覚になった。って、いやいや、何やってるんだよ!
「何をしている! 離せっ!」
「パオロ様、ほら。右肩が元通りになられてます!」
「さっきから何を言っているんだ?」
「パオロ様は、今、ご無理をなさっているんです」
「なッ! どうしてそんなことが言えるのだ!」
「パオロ様は、無理をしていると、右肩が上がるクセがあるんです」
「何! そんなわけ…!」
ん、待てよ。何か、思い当たる節がある気がする。そういえば、現実世界の母親にも一回、そんなことを言われたことがあったっけ。確かに、今も俺は無理をしている。この件が精神的ストレスだったからだ。
凄い。こいつ、どんだけ俺のことをよく見てるんだ。凄すぎる。ストーカーか? 冗談はさておき、この時俺はミョージャに対して、不思議な気持ちを抱いた。
「今は両肩、水平か?」
「はい!」
ミョージャはにっこり笑って言った。ミョージャの言う通りだ。ミョージャの明るさのおかげで、少し元気が出たからである。
「では、行ってくる」
「行ってらっしゃいませ」
ミョージャの瞳は、真っ直ぐに俺を捉えていた。よし、頑張ろう。バレンシア家のために。親父のために。ミョージャのために。
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