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そんなこんなでようやくバルドナード邸に到着した。当たり前だが、今日、俺は招かれていない。よってカバジ・ジャコフは屋敷の前に姿を現さなかった。
案内人がいないと、どこに行けば親父達の所に辿り着けるかわからない。俺はひたすら色んな部屋を当たっていった。なかなか見つからない。焦りは募る一方である。
うわー!
なんだ!? 今いる部屋のちょうど上の階から、悲鳴が聞こえる。嫌な予感がする。
急いで上の部屋に行くと、親父が部屋の中の赤い絨毯の上にうつ伏せに倒れていた。親父は誰かのことを睨みつけている。完全に部屋に入り、親父の視線の先を確かめると、そこにはやはりロイド・バルドナードが立っていた。そしてその隣には、カバジ・ジャコフがいた。
「な、なんてことを…!」
親父が俺の声に反応し、こちらを向く。よかった、まだ意識は確かなようだ。
「どうしてきやがったんだ…!」
「親父! 何やってんだよ!」
「バレンシア家を守るためだ」
「そんな傷だらけになって、死んだらどうすんだよ! てか親父、何がバレンシアだよカッコつけやがって! ふざけんなよ!」
「はっはっは…。お前と俺はこの世界でもケンカか…。でもな、パオロ、いや。洋平。ワシはもう死ぬ。みんなを、ミョージャを、よろしく頼んだぞ」
「親父ーッ!」
親父は息絶えた。ロイド・バルドナードは今度は俺の方を向いた。
「ワシに逆らうからこうなる。次は貴様を殺す」
俺は身構えた。大丈夫。俺はこの世界の主人公。無双&俺TUEEEEEだ。それに何より、俺には守るべきものがある。バレンシア家、ソーナ、アロンゾ。そして、ミョージャ。絶対に負けるわけにはいかない。
「お待ちなされ」
俺とロイドの前に割って入ったのは、まさかのカバジ・ジャコフだった。どうしたってんだよ、ジジイ。ロイドも同じことを思ったらしく、驚きの声を張り上げた。
「どうした! 老いぼれの使用人が! 邪魔するなら、貴様ごと抹殺してくれるわ!」
うわー。もうこうなったら見境ありませんね。
「わたくしカバジ・ジャコフ、実はバルドナード様の使用人ではありません」
「何を言っている? ついにボケたか! ならばよろしい。しっかりと葬ってやるからな!」
ロイドは、指からビームみたいなものを放った。えええ? なんですか、この攻撃。俺、沢山アニメも観たし、ゲームもしたけれど、もっというと学校の魔法学でも習ったけれど、こんな攻撃魔法は見たことがない。しかし、その謎の必殺技を、カバジ・ジャコフは念力によって簡単に跳ね返した。
「ふぉっふぉっふぉ。話を最後まで聞く。こんな基本が出来ない痴呆に言われたくありませんな」
「なにぃ!? 貴様! このワシに何という口をきくつもりじゃ!」
必死に声を張りあげるロイドだったが、明らかにその顔は恐怖に慄いていた。無理もない。ロイド・バルドナードともなれば、闘いに敗れたことなど、人生においてないのだろう。そんな中、初めての敗北の兆しが、対使用人とのやりとりで見えたとあれば、さぞや恐ろしく感じるに違いない。
「わたくしカバジ・ジャコフは、ギルバート帝の使いでございます」
ー続くー
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