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あれからというもの、親父がいなくなった悲しみが消えることはないが、ロイド・バルドナードという厄介な敵がいなくなったことと、バレンシア家自体が偉くなったことで、俺達家族にとっては比較的平穏な日々が訪れた。俺はバレンシア家の当主になったが、学生ということもあり、母ソーナが当主としての役割を全面的にサポートしてくれることになった。といってもまあ、今のところ特に大変な仕事はないのだけど。
何度も言うが、俺はこの世界をゲームでもアニメでも知らない。だからこそ不安な面もあるが、知らないからこそワクワクすることだってある。
ミョージャは、段々、一端のメイドというよりかは家族に近い存在となってきていた。というか、ほぼもう家族だ。毎日を共に過ごし、ソーナにとって、アロンゾにとって、そして何より俺にとって、かけがえのない存在となっていた。
ただ、ひとつ寂しいことがある。明日から学校が始まるため、今日のうちから寮に再引っ越ししなければならないということだ。俺は今学期から、2年生となる。俺が留守にしている間のバレンシア家は、大丈夫だろうか。いや大丈夫だ。バレンシア家には俺だけでなく、アロンゾという立派な男がいる。心なしか、少しずつ精神的に大人になってきている気がする。俺の背中を見ているからかなって、はは。そんなわけないか。真面目な話、親父がいなくなったことで、俺だけでなくアロンゾにも責任感が芽生えてきたのだと思う。親父はアロンゾに色んなことを教えていたみたいだ。つまり親父つまり長谷川和雄は、長谷川洋平の父親であるばかりでなく、アロンゾ・バレンシアの父親でもあったということだ。
「では行って参ります」
みんなに挨拶をする。すると、ミョージャが俺の前に立って、俺の右肩をチェックし出した。定規なんか持ってきて、アホかっつーの。
「あー! パオロ様、右肩が3ミリ上がってます! 無理をしているみたいですね! 学校に行くのはやめましょう!」
「やめるかーっ! 3ミリなんて誤差に決まっているだろうが!」
「兄ちゃん、きっとミョージャは兄ちゃんと離ればなれになりたくないんだよ」
「それならそうと、最初からそう言いたまえ」
「ち、違いますッ! 私はただ、パオロ様の両肩が…」
埒があかないので、会話を見ていた母ソーナが割って入った。
「さっきから両肩両肩って、何の話をしているの?」
ソーナがそう言うと、アロンゾはおかしそうにからからと笑った。構わずソーナは続ける。
「でも、あなた達、とってもお似合いよ。きっと、天国のロベルトさんも喜んでるわ」
俺とミョージャは顔を見合わせた。すると2人とも、自然と笑みが溢れた。
「じゃあ、頑張って行ってきなさい! 立派な騎士になるために」
「はい!」
ー2章はじまりー
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