100人が本棚に入れています
本棚に追加
目が覚めた。もちろん、目が覚めるというのは睡眠状態から起きるということではない。漫画などで使う「覚醒」という意味だ。俺は今まで、逃げてきた。何かというと自分が「40歳引きこもりニート」であるということを盾に、目の前に起こる問題に立ち向かってこなかった。転生先でもそうだ。すぐ何かわからないことが出てくると、「俺はこの世界をゲームでもアニメでも知らない」という無知を言い訳に、思考停止を繰り返してきた。そんなことでは、せっかく異世界転生した意味がない。
確かに、俺の「異世界転生」は普段アニメやゲームで目にするような設定や世界観が違う。そしてこの世界を自分が見たことがないのも事実だ。もっというと、俗にいう「異世界転生」とは似て非なるもので、この事象は何かまったく別の概念なのかもしれない。でも。
それがどうした。知らない世界に異世界転生をして、本来の主人公とは別の自分なりの行動を起こしたっていいじゃないか。そもそも、これが「異世界転生」じゃなくたっていいじゃないか。
自分が、俺がこの何もわからない世界に降り立った意味を、考えてみるべきではないのか。無双できるところだけではなく、自分の成長を味ってみたい。そんな思いが、腹の底からふつふつと沸き起こった。
学校から寮に帰ると、ブルーナがいた。よし、ちょうどいい機会じゃないか。胸が痛いから、ブルーナにはっきりと言い、2人きりでは会わないようにしようと言うしかない。
「ブルーナ。話がある。俺は…」
「ごめんなさい!」
「え?」
ブルーナは頭を下げたまま話を続けた。
「こないだのこと、忘れてください! 勘違いさせてごめんなさい! アタシはパオロのこと、友達としか思ってないです」
「ブルーナ…」
ブルーナ、ありがとう。俺に罪悪感を抱かせずに自ら身を引いてくれりブルーナの優しさが、これでもかというほど胸にしみた。そして、これならブルーナのプライドも傷つかない。
「わかった。これからもよろしく」
「うん」
ブルーナは、走って部屋を飛び出した。俺には見えていた。彼女の涙が。
ブルーナは泣いていたのだ。
「ふう。さてと」
これでよかったんだ。よし、今度はミョージャに会おう。そして誠心誠意、心から謝ろう。
ミョージャに対する愛を誓うのだ。童貞丸出しだっていい。間違ってたってなんだっていいんだ。これが俺の答えなんだ。
俺は再び、家に帰ることに決めた。そうと決まったらぐずぐずしてはいられない。早く、早くミョージャに会いたい。学校帰りで体が疲れていることなんてまったく、足かせにならない。俺はがむしゃらに走り続けた。待ってろ、ミョージャ!
ん!?
寮から飛び出して10分ほどすると、向こう側から走ってくる誰かとすれ違った。それはミョージャだった。
最初のコメントを投稿しよう!