結露のモザイク

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結露のモザイク

モザイクみたいにぼやけた 結露している鏡 手で拭き取れば 私の姿が歪んで映る この人はなんて名前なの 私はこんな人知らない 拭き取ったのは 単純に(よど)んだ喪失の痛み つくづく鈍感になったものだと 自虐的に笑えば 途端にぽろぽろ何かがこぼれた 昨日まで愛した人は 私の中に消えない爪痕を残して 真新しい傷に刺さるような 涙の卵を産みつける ふと呼ばれた気がして 振り向くと空虚な壁が見え どうやら私を呼んだのではないと 自分の名前が分からなくなった だけど どこか淡白で どこか他人事(ひとごと)で 望まれるように 傷ついてあげられなくてごめん 恋に溺れた反動は 私のささくれを爪でちぎり 無血の情けなさでこそ泣けてくる また次第に鏡は濡れて 流れ落ちていく想い出の欠片 望まれるように 傷ついてあげられなくてごめん 大事だったから 実感を伴わなくて 昨日失った心の粒を 愛された名前とともに 拭き取って忘れてしまう モザイクみたいにぼやけた 結露している鏡 手で拭き取れば 私の姿が歪んで映る この人はなんて名前なの 私はこんな人知らない
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