6人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
11、いつまでも(完)
それから、二年の月日が流れた。
女武将Vtuberとして活動していた上杉定姫のチャンネルは今も存在し続けている。
だが、凪沙が活動を再開することも、姿を見せることもなかった。
時の流れの中で風化していく記憶。そんな状況が続いていても、恵理那は変わらず活動を続けていた。
凪沙との連絡が途絶えても、恵理那は挫けなかった。
私から連絡するまで連絡してこないで、家にも来ないでという引退配信の日にメールで告げられた言いつけを守って。
恵理那には凪沙の傷がどれほど根深いものだったかは分からない。
だから、信じて親友の帰りを待ち続けていた。
「あたしは忘れないよ、忘れさせないよ、忘れてなんてあげないよ。
まだ言い足りないことだっていっぱいある。
本当の気持ちを教えてくれたこと、ありがとうって伝えてない。
だから、千年咲かせ続けるから、凪沙がいなくても、いつでも帰ってこれるように」
全てが順調とは言えないが、大手Vtuber事務所として運営を維持し、業界の最前線を生き続ける恵理那。
だが、彼女は今や一人ではない。
一期生メンバーの中には古くからの友人も参加し、互いに支えあう関係として深い親交を続けている。
所属タレントはそれほど多くはなくても、技術スタッフやマネージャーの支えもあり、一人一人の活動は充実したものだった。
凪沙の帰る場所を守り続けるという覚悟が、時が経っても彼女を動かし続けている。
度々、彼女の歌動画の中に上杉定姫の姿が登場するのは決して忘れないという彼女の決意の表れだった。
春は何度でも訪れる。桜は咲き乱れ、そしてあっさりと時の流れの中で散っていく。そのたびに恵理那は凪沙との引退配信の日を思い出した。
「まだ、あたしは信じてるから。上杉定姫の魂は生き続けてて、活動を再開することを夢に思い続けて、配信したくてうずうずしているって。だから、チャンネルを消さずに残してるんだよね? そうだよね? 凪沙」
今日を懸命に生き続けながら、藻掻きながら、上園恵理那は大切な瞬間を夢に持ち続けている。
親友である大野凪沙が、再び自分の分身に命を吹き込むその瞬間を。
上杉定姫のチャンネルは今も再生数を重ね続ける。
千年咲き続ける桜のように、主人の帰りを待ちわびながら。
最初のコメントを投稿しよう!