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ミニマム王国からの要請
ヒロキのお母さんは、夕ご飯の用意をしている時に、急にお客様が訪ねてきたので、大急ぎで部屋を片付けた。
でも、訪ねてきたのはミニマム王国の人たち。大きさが、人間よりも大分小さく、ヒロキの膝丈くらいまでしかない。
毎日毎日公園で泣いているヒロキに、何か役に立てることがあるのだろうか?
ミニマム王国と、日本は同盟を結んでいるので、要請があれば余程の理由がないと要請は断れない。
ミニマム王国の人のお話を聞くと、是非、ヒロキにミニマム王国まで来て、盛大に泣いてほしいのだという。
理由を聞いてみた。
ミニマム王国では、最近、暑すぎるせいか、住民同士の喧嘩が増えて、王様がこまっている。だからと言って、武器を出して戦いだすと、戦争になってしまう。
そこで、喧嘩が勃発したときに、ヒロキを連れて行って、その泣き声で、喧嘩している集団を蹴散らしてほしいというのだった。
たしかに、ミニマム王国の人たちより、大分大きいヒロキだったら、鳴き声も相当大きなものになるはずで、武器で追い払うよりは、平和的な解決になるのだろうと、ヒロキのお母さんも思った。
それに、何より、毎日公園で泣いているヒロキを少しの間だけでもミニマム王国に連れて行ってくれるのだったら、ヒロキのお母さんとしても少しは休めるというものだ。
ただし、ヒロキはまだ幼稚園児だし、すぐにお腹を空かせて泣くので、お母さんはヒロキの夕方のおやつを作って持たせることになった。
ヒロキはおにぎりが大好きだから、いつもの大きさのおにぎりを4つと、水筒に入れたお水を持たせた。
さて、翌日からヒロキは歩いて10分ほどのミニマム王国まで出かける事になった。
往復はお母さんが送る。日本国としては、ヒロキのおやつ代と、そのほかにお母さんが家を空けている間のお金を少しだけ払ってくれることになった。
おやつ代と両方合わせて、一日1000円ほどだった。
なにせ、ミニマム王国とは通貨が違うので、日本国としても、ミニマム王国から貰えるお金だけでは、ヒロキのおやつ代すら出せない状態だった。
さて、泣虫のヒロキはどんな役になったのだろうか。
まず、ミニマム王国の入り口までヒロキを送って、一回お母さんが家まで戻ろうとした時だった。
「おかあさん~、やだ~、帰らないで~。」
さっそくヒロキが泣き出した。
ミニマム王国の広場では、住民たちがどちらの広場が日影が多いかで喧嘩をしていた。
ヒロキはお母さんが見えなくなってしまったので、ミニマム王国の広場にひっくり返って泣き始めた。
頭を広間の地面に打ち付けて泣くものだから、ミニマム王国の人たちは、地面の揺れに合わせて、皆、トランポリンの様に飛び上がっている。
そのうち、どちらの日影が多いかなんて、わからなくなってしまい、ヒロキの鳴き声の大きさにも耳をふさぎ、各自、自分の家へ戻って、窓やドアを閉めて、音が入ってこないようにした。
ミニマム王国の偉い人は、ヒロキのリュックをヒロキの所までミニマム王国の小さな馬100頭で引きずってきて、ヒロキの手の届くところに置いた。
お母さんに置いて行かれて泣いていたヒロキも、お腹が空いていたことに気づいた様子で、お母さんの作ってくれたおにぎりを、食べ始めた。
ようやく泣き止んだヒロキを一目見ようと、今度はミニマム王国の人たちは窓を開けて、起き上がっておにぎりを食べているヒロキを眺めた。
大きなおにぎりをモッシャモッシャと食べるヒロキを、みんな珍しそうに見つめていた。
やがて、ヒロキのお母さんが迎えに来た。
ヒロキを見物していた人たちは、また表に出て、夕風がどこが一番涼しいかで、小競り合いをしていたが、ヒロキが
「わ~~ん。お母さん。一人で寂しかったよ~。」
と、大声で泣くのを聞いて、また、それぞれ家の中に飛び込んだ。そして、大急ぎで、ドアや窓を閉めて、自分のいえに閉じこもるのだった。
さて、こんなことを何日も続けるうちに、ミニマム王国の人たちは、自分たちがもめごとを続けていると、人間の国からヒロキがやってきては、自分たちの静かな町で、大声を出して泣くという事に気が付いた。
なにせ、声が大きいだけではない。ヒロキが泣くと涙が地面に流れて、しばらくの間、道路が川の様になってしまうのだ。
やがて、ミニマム王国の住人は、王様に嘆願書を出しに行った。
『私達、ミニマム王国の住民は、広場をみんなで使い、日当たりや、風の通り道などで喧嘩をしないことをここに誓う。よって、人間国からヒロキを送り込むのをやめてほしい。』
嘆願書にはそう書かれていた。
ミニマム王国の王様は、日本国の代表に、もうヒロキは必要なくなりました。今までありがとう。と、手紙を出し、ヒロキの家にもお礼を言いに行った。
ヒロキのお母さんは、少しの時間でもヒロキの大泣きにつきあわなくて良かったので、ミニマム王国の申し出には少しがっかりしたが、毎日毎日おにぎりのおやつを作るのも大変だったので、
「お役に立てなのなら良かったです。」
と、今回のお役目を機嫌よく終えたのだった。
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