大きいのにすぐに泣く

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大きいのにすぐに泣く

 ヒロキは身体は大きいのに、公園でもすぐ泣くので有名だ。  ヒロキの家は、公園の真上で、ヒロキのママは公園が見えるので、大抵家にいて、お腹を空かせてかえってくるヒロキの為に何か作っている。  だって、お腹を空かせてかえってきたときに、すぐに食べるものがないと、ヒロキは身も世もないほどに大声を出して泣き崩れてしまうのだから。  ヒロキと同級生のお母さんたちはみんな公園で、子ども達を見ながら遊ばせている。みんなヒロキのお兄ちゃんの時からの友達なので、こころよくヒロキのことも一緒に公園で見ていてくれるのだ。  お腹が空いた時の惨状も、お兄ちゃんの時から同じだからだ。  ヒロキにはタケオというお兄ちゃんがいるのだが、このお兄ちゃんも泣き虫だった。1月生まれなのに他の同級生よりも体は大きかった。  そして、ヒロキはまだ、男子の同級生もいたのだが、タケオの時は同級生はみんな女子だった。  もちろん、お母さんたちが見ているので、少しの喧嘩はしても、叩いたり、ものすごく意地悪を言ったり等誰もしない。  それでも、タケオも、ヒロキも実によく泣いた。  周囲のお母さんたちも、それくらいで泣かれても、困っちゃうよ。という程度の、お砂場のお道具をかした、かさない。  女の子が3人で同じことを言ってタケオやヒロキに食って掛かった。  果てには勝手に転んだ。靴が脱げた。  そんなしょうもないことで、タケオが公園を卒業して小学校に行く頃には、次にはヒロキが団地中に響き渡るような声で泣くのだった。  タケオとヒロキのお母さんも、すぐに泣いてしまう自分の息子たちには少々あきれていた。  一緒に遊んでいても、何故うちの子だけ泣いてしまうのか。  それも、他の子だったら、少し言い返したり、うまく矛先を交わしたりして、泣かずに遊んでいるのに。  タケオはまだ、母親が言い聞かせれば、すぐに泣き止んだのだが、ヒロキは、少し位母親が何かを言ってもいつまでも泣いている。  挙句の果ては、地面にひっくり返って、頭を地面にたたきつけて泣くものだから、結局は家から、ひっくり返って泣いているヒロキを迎えに行かなければいけないのだった。  近所のお母さんたちからも 「泣き声だけで、誰だか分るよ。」  と、笑われる始末だった。  タケオは、1月生まれだったこともあって、小学校に入ると、幼さを見せ、逆に、先生も早生まれに配慮してくれたので、泣かなくなった。  ヒロキは6月生まれで体も他の子より大きく、地面にひっくり返って泣かれると、母親でも簡単には連れて帰れない位重かった。  そこで、団地で車も来ないことから、ヒロキの母親は、泣いていてもしばらく放置することに決めた。  ある程度泣くと、自分で少しだけ起き上がって、何とか座るところまでは来るからだ。  でも、兄のタケオの同級生のママはヒロキを我が子のようにかわいがってくれて、ヒロキがひっくり返って泣いていると、地面から救い出して、手をつないで家まで連れてきてくれるのだ。  ヒロキもそのママにはよくなついていて、ダラダラと甘えた泣き方をしながら、手をつないで帰ってくる様子は、少なからず母親をがっかりさせた。 『私の時には本当に言う事を聞かないのに。いったいどういう事よ。』  そして、もう一人、ヒロキが可愛くてならない人物が団地の一階に住んでいた。  家で、あまりにも言う事を聞かずに3階の部屋の外にお仕置きとして出した。その後、すぐに泣き声が止んだので、泣き止んで反省しているかと思って、ドアを開けた。  ヒロキがいない。 「あれ?」  慌てて一階まで探しに行ったけれど、いない。  公園の方には出てきていないし、まさか、外周道路の方に出る事はこれまでなかったし。  いささか焦って探していると、キィっと、一階のドアが開いた。 「あのね、泣いてたからうちに呼んだの。」  一階のおばあちゃんだ。  玄関から覗くと、おばあちゃんちの御炬燵にほっこりと入り込んで、お菓子まで出してもらって、ダラダラと甘え泣きをしている。  さすがにこの人の好いおばあちゃん相手に 「躾になりません。」  と、食って掛かるのも気が向かず、ヒロキの母は、 「ありがとうございます。でも、もう、連れて帰りますね。夕ご飯になりますから。」  まだ夕方少し早めだったが、一応そう言ってみた。 「もうちょっと落ち着いたら、お家に帰るように言うから。」  このおばあちゃん、おじいちゃんと二人暮らしだったが、ご家族とは疎遠だし、おじいちゃんがついこの間亡くなったばかり。自分も寂しいのだろう。 「じゃぁ、申しわけないけどもう少しだけお願いします。ヒロくん、いい?もう少しだけだよ。自分で帰ってこられるね。」  そう言って、夕ご飯の準備をしに家に帰った。  そんなふうに、毎日どこかで泣きわめいているヒロキにある時、国からの要請が入ったのだ。
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