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諦めていた恋心がこの事により再びムクムクと大きく膨れ上がり、いっちゃんに恋している自分を再度自覚してしまった。
(これからいっちゃんの元で働ける! それにもしかしたら……)
甘い未来を夢見た。いっちゃんが私を頼ってくれたというだけで思いっきりポジティブな思考に捕らわれてしまっていた。
──そう、この先に待っている決して甘くない現実を私が知るのはまだまだ先のことだった……
そして瞬く間に時は過ぎ、私は無事高校を卒業した。
いっちゃんの待つ街へ上京する日、私は両親といっちゃんのお母さんと幹くんに見送られた。
「まぁ、樹くんの会社ということだから心配はしていないけどね。体には気をつけなさいよ」
「うん、ありがとうお母さん」
「涙花ちゃん、樹のこと、よろしくね」
「うん、おばさんも体、気をつけてね」
「るいちゃん、たまには兄ちゃんと一緒に帰って来てね」
「うん、幹くんも勉強頑張ってね」
「樹くんの会社というのは確か派遣会社だったか? 色々難しい事もあると思うけど何かあったらすぐに相談するんだぞ」
「分かってる。ありがとう、お父さん」
みんながみんな、私の門出を祝福しつつも不安そうな気持ちも伝わって来た。
だけど故郷を離れる寂しさはあったけれどこれからの未来に対して不安な気持ちは全くなかった。
(だって私を待っているのはいっちゃんなんだから)
「私、頑張るから! 心配しないで!」
乗り込んだバスの窓から遠ざかるみんなの姿が見えなくなるまで手を振った。
──こうして私は18年間住み慣れた町を後にしたのだった
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