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「蒼様は初めから涙花様のことを諦めておいででした」
「え」
「蒼様は言っておられました。本当に好きな女に背負わせるほど林宮寺の名前は軽くない──と」
「それって」
「蒼様の妻になるということは共に修羅の道を歩むということです。それを涙花様には歩ませたくないと仰っていました。それでもどこかで踏ん切りがつかずにいて、今回最後の賭けに出たのだと思います」
「……蒼さん」
「どうか心を痛めませんように。涙花様が幸せになられることを蒼様は心から願っておいでですから」
「……」
私は朱里さんに深々と頭を下げた。
「涙花様?」
「短い間でしたけどお世話してくださってありがとうございます。私、出来ればこれからも朱里さんと仲良くしたいです」
「……」
朱里さんから明確な答えはもらえなかったけれど私に向けられた優しげな笑みが肯定を物語っているようにみえた。
こうして私の短いようで長かった一日は感慨深く終わろうとしていた。
──いや……まだ終わりそうになかった。
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