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いっちゃんが慌ただしく食事を済ませ仕事に出かけるのを玄関まで見送った。
いっちゃんが家を出ればまた部屋の中は静寂に包まれる。それはいつもとなんら変わりのない静寂だったけれど今は蒼さんがいないから気持ち的には静かさの度合いが大きかった。
家の中に人の気配があっても静かだというのに慣れなかった。そういうのは寂しいことだと思っていたから。
だけど実家にいた時もそうだったから此処での静寂も時が経てば慣れてしまうものだと思っていた。
「ルイカ」
「!」
物思いに耽っているといきなり後ろから抱きつかれた。
「やっとふたりきりになれたね」
「か、薫さん」
「ルイカ……」
私の体をくるりと半回転させ薫さんは腰をかがめてキスした。チュッチュッと軽く二、三度。すぐに唇が離れ、そして薫さんは私の手を取った。
「薫さん?」
「行こう」
「何処へ?」
「……」
薫さんはフッと妖艶な笑みを浮かべて私の腰を引かれた。
「!」
それだけでこれから何処へ行って何をするのか分かってしまった。
ほんの数時間前に味わった快楽を再び薫さんの部屋で味わわされていた。
昨日の今日で、こんなに短い時間で覚えたての行為をすることが恥ずかしいと思いながらも全身で薫さんを受け入れ、感じ、温もりを知ると益々離れ難くなってしまうのだった。
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