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「だぁぁー! だからそういうイチャつきを俺の目の前でするんじゃない! ったく……こういう心臓に悪いことが回避されるなら薫の独立はなおさら喜ばしいよ!」
「……あっそ」
「いいか薫。絶対に涙花の嫌がることをするんじゃないぞ! 大切にしないと俺はおまえを八つ裂きにするからな!」
「なに当たり前なこと言ってるの? というか樹にそこまでされる謂れも筋合もない」
「おまえはぁ~~~」
(ふふっ、また始まった)
相変わらずいっちゃんと薫さんの間にはある種独特な関係が存在しているようで時々ハラハラしたりするけれど、でも本当はふたりとも心から信頼しあっているのだというのが分かるようになって来たから前みたいに不安になったりはしなかった。
こうして私たちはいっちゃんから会社を去る同意をもらった。
次に蒼さんに話をするためにメールで打診してみた。
「……あ、返信来た。蒼さん、蓼科から帰って来るって」
「本当ですか? 本来なら私たちが蒼さんの元に向かうべきなのに」
「だね。でもなんかメールに【そろそろ田舎にいるのに飽きたから帰る】って」
「蒼さんらしい」
思わずクスッと笑みが零れたけれど、勿論それは蒼さんの優しさの断片だと知っている。
そしてそのメールから約半日後、蒼さんは数日ぶりにマンションに帰って来た。
「独立には反対だ」
「……え」
「……」
リビングのソファにドカッと座った途端、蒼さんは開口一番そう告げた。
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