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でもだからといってこのままずっと此処にいるのは本意ではないことで……。
(……あ!)
そんな時、頭の中にある人のことが思い出された。
「蒼さん、朱里さんは?」
「──は」
「蒼さんの部下の朱里さんですよ。私のお世話をしてくれた時、凄く細やかな気遣いで快適に過ごせましたし、それにお料理も完璧! ううん、私なんかよりも腕がよくてそれはもうプロ並みでした!」
「……」
「朱里さんに此処にいてもらうことは出来ないんですか? 朱里さんなら蒼さんだって気遣う必要はない訳ですし、現に蓼科の別荘でも朱里さんが蒼さんのお世話をしていたんでしょう?」
「……」
「だったら此処でも同じように出来るんじゃないでしょうか」
我ながらいい考えだと思った。
朱里さんという存在を知った今では新しく家政婦さんを雇うよりも、私なんかよりも遥かに適任だと思うのだけれど。
「朱里──か。あいつを家政婦にとは考えたことがなかったな。あいつはあくまでもオレの部下で陰ながらオレの指示どおりに好き勝手動かせる駒くらいにしか考えていなかったが」
「蒼さん、朱里さんに対して酷い言いようですね」
「煩せぇな。部下と家政婦は全然違うだろう! そういう発想もなかった」
「じゃあ、考えてみませんか?」
「──……まぁ、確かに朱里なら何の気遣いも要らねぇし飯も食えるもの作れるし」
「じゃあ!」
「……ったく。おまえ、自分のことになると悪知恵が働くんだな」
「悪知恵とは失礼な。それに私だけのことじゃないです。薫さんと私のことです」
「ルイカ……」
今までずっと私の手を握りしめてくれていた薫さんの掌にグッ力が入った。
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