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「私は薫さんが望む環境を得るためなら必死になります。どうしたって叶えてあげたいと思うんです」
「……ルイカ」
何ともいえない表情を私に向けて薫さんは繋いだ手を持ち上げ、チュッと手の甲にキスをした。少し恥ずかしかったけれど薫さんの気持ちを感じられて恥ずかしさよりも喜びを感じた。
「あぁ、阿呆くさ」
「!」
「樹が言っていた通りだな。おまえらが場所を弁えずにイチャつくんだって苦情がガンガン入っていたんだが。確かにこんなのをいつでもやられたら此処の風紀が乱れるってもんだな」
「風紀って」
「仕方がねぇ。特別の計らいだ。薫、そいつを連れて此処から出て行け」
「……蒼さん」
「ただし、独立は認めねぇぞ」
「え」
「おまえの起ち上げる店は林宮寺との提携にする」
「提携?」
「どうせおまえは服を作るしか能がないんだろう? 正式な店にしようとしたら今までのような個人的なやり方じゃ済まなくなる。だからオレが選りすぐった優秀なスタッフを何人か寄越してやる」
「……」
「経営に関する細々とした業務はそいつらに任せろ。だがあくまでも店主はおまえだ、薫。おまえがスタッフに指示を出すんだ。それくらい出来なくて独立とか抜かすなよ」
「……うん」
それは思いがけない言葉だった。
確かに闇雲に独立といってもそういった事に素人な私は勿論、薫さんだって性格的にはどこまで表立ってやれるか分からないのだ。
そんな私たちに蒼さんは救いの手を差し伸べてくれた。
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