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「いいんですか、蒼さん」
「あぁ? 何がだよ。オレはただ単にビジネスの話をしているだけだ。目先に儲かりそうな話があればいち早くものにするだけだ」
「ふふっ、相変わらず」
「なんだよ、この家政婦風情が。オレ様に生意気な口叩くんじゃねぇぞ!」
「ははっ、はい。申し訳ございませんでした」
「ふんっ」
それは私のよく知っている蒼さんだ。そして何故か、あぁ、これが蒼さんなのだと思えるようになったことが嬉しかった。
「……蒼さん、ありがとう」
「頭下げんな、気色悪ぃ。ってかいいのか、独立は無しだぞ」
「いいよ。元々独立だなんて大層なこと真剣に考えていなかったから。ただ単にルイカと一緒に住めてずっと傍で好きな仕事が出来ればいいと、そう思っていただけだから」
「そんなことだろうと思ったぜ。おまえが独立だなんて絶対あり得ねぇって思っていたからな」
「さすが蒼さん。頼りになる」
「煩せぇ! いいか、林宮寺が手を貸すんだからちゃんと儲けさせるんだぞ」
「儲かるかどうかは分からないけどルイカのために頑張るよ」
「おまえ……そこはオレのために、だ! 間違えるなっ」
「いや、間違っていない」
「てめぇ~~~」
「あははっ、蒼さんも薫さんも……相変わらずですね」
ふたりのやり取りを見て思わず声を上げて笑ってしまった。
私は今、なんて素敵な瞬間に立ち会えているのだろう。好きな人が生きて行く道を見つけた瞬間、其処に向かうためのスタート地点に立ち会えたこと。
気の置けない人たちとの触れ合いや、本当の気持ちを確かめ合っている瞬間に立ち会えたこと。
その全てが私にとっては心に残る貴重な瞬間となったのだった。
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