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そのあまりにも突然の話に私はビックリした。
「えっ、いっちゃん学校やめるの?!」
「あぁ、決めたんだ」
私が『いっちゃん』と呼んで慕っている彼は喜多野樹。近所に住む5歳上の幼馴染だ。
ひとりっ子の私にとっていっちゃんはお兄ちゃんみたいな存在で、幼い時からいつも一緒に行動していた頼もしい男の子だった。
「でもあと半年で高校卒業なんでしょう? 卒業してからだって──」
「それじゃ遅いんだ!」
「!」
「折角最終選考まで残ったんだ。俺はこの機会を絶対逃したくないんだ!」
「……いっちゃん」
いっちゃんはこんな田舎にはそぐわない程のイケメンだ。
昔からカッコよくて同世代の女の子たちはみんないっちゃんのことが好きだった。
そんないっちゃんの夢は芸能人になることだった。その夢を知るみんなは『樹くんなら絶対になれる!』と応援していた。
勿論私だっていっちゃんの夢を応援していた。
いっちゃんが私の元から遠く離れてしまうのは寂しいけれど、いっちゃんが夢を叶えるために此処を出て行くのならそれは仕方がないことなのだとずっと覚悟していた。
そんないっちゃんがこの度雑誌の広告に載っていたとある映画の新人俳優募集オーデションに応募して最終選考まで残ったのだ。
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