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「これって凄いチャンスだと思わないか?! 今、この機会を逃したら俺は……俺の目指す夢にはもう手が届かないような気がするんだ」
「……」
「だから高校やめてすぐにでも上京したいんだ」
「……」
「涙花は応援してくれるよな? 俺のこと」
「……」
いつかは私の元から飛び立ってしまう存在なのだと分かっていた。
だっていっちゃんの光り輝く存在感はこんな田舎で埋もれていいものじゃないと子どもながらに思っていたから。
「涙花」
「……うん、応援する」
「! ありがとう、涙花」
「でも……寂しくなっちゃうなぁ……いっちゃんがいなくなっちゃうなんて」
「俺も寂しいよ、涙花と離れるのは」
「……」
いつも悲しんでいる時にいっちゃんがやってくれる頭を優しくポンポンする仕草。今やってもらっているそれはいつも以上に胸が切なくなる掌の感触だった。
(黙っている方がいいんだよね……きっと)
いつかは言いたいと思っていたいっちゃんに抱いていた恋心。
だけど夢に向かって一生懸命になっているこんな時に言ってはダメなんだってことは中学生の私にだって解るのだ。
(バイバイ、私の初恋)
青木涙花、13歳。初めての恋はちゃんとした結末を迎えることが出来ないままに静かに散って行きました──。
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