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「お邪魔します!」
いっちゃんの家に着き、玄関で慌てて靴を脱いだ。
「あ、涙花ちゃん待っていたわー。先刻樹から電話があってね、涙花ちゃんにはすぐにでも知らせようと思って」
「おばさん、いっちゃんなんだって?! っていうか元気なの? ちゃんと生きているの?!」
「まぁまぁ、ちょっと落ち着いて。元気だったわよ、意外と」
「~~~」
そこでようやく息を吐き、その場にヘロヘロと座り込んだ。
「涙花ちゃんには随分心配をかけていたようね、あの子ったら。何処でどう生きていてもいいけどせめて涙花ちゃんには連絡するべきよね。全く……」
「……おばさん」
いっちゃんのお母さんは私がいっちゃんのことを好きだと知っている。
私の親は共働きで学校から帰っても家には誰もいなかったから小さい時からいっちゃんの家に出入りしていた。
いっちゃんのお母さんはもうひとりのお母さんという感じで本当の母親以外になんでも話せる唯一の大人だった。
「それでね、はい、これ」
「?」
おばさんから差し出された紙切れに少し戸惑った。
「樹からもし涙花ちゃんが大学に行かないで就職する選択をするようなことがあったら一度此処に電話して欲しいって託されたの」
「えっ」
「なんでも樹、芸能人を目指すのを止めて今は普通に会社に勤めているみたいなの。で、その会社、人手が少なくて働き手を探しているってことらしいの」
「……」
おばさんから訊かされた話は今の私にとっては夢のようなものだった。
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