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(嘘……まさかこんなタイミングでいっちゃんから就職のお誘いが?!)
「でも涙花ちゃん、進学希望だったら樹なんかの誘いを気にしないで──」
「する!」
「え」
「おばさん、私、いっちゃんに電話する!」
「はぁ」
「これ、ありがとう! 今日はこれで帰るね」
「そ、そう。また何かあったらおばさんにも教えてね」
「うん!」
私は慌ただしくいっちゃんの家を出て自宅に向かって走り出していた。
(いっちゃんが……いっちゃんの勤めている会社に私も!)
つい先刻まで悩んでいた事が一気に解決しそうで、もやもやしていた心があっという間に晴れやかになっていた。
誰もいない自宅に帰りつき、逸る気持ちを押さえながら携帯を取り出して渡された紙に書かれていた番号にかけてみた。
無機質な呼び出し音が数秒流れ、そしてカチッと音が変わった。
「あっ! あのっ」
『留守番電話サービスに接続します。ピーッという発信音の後に──』
(留守電!)
驚いてしまい思わず通話終了ボタンを押した。
「あっ! 切っちゃった」
あまりにもテンパっていた私は留守電にメッセージを残すのを忘れてしまった。
「ば、馬鹿ぁ~~! なんで切っちゃうのよ~~~」
深呼吸をして気持ちを落ち着かせながらもう一度電話をかけて留守電にメッセージを残そうと思った。
再び携帯を取り、ボタンを押そうとした瞬間「チラリラリィィィ~ン♪」と携帯が鳴った。
慌てたけれど画面に記されていた番号が今かけたばかりのものだったから少し震えている指先で通話ボタンを押した。
「も、もしもし?」
『もしもし? あの、今この番号にかけましたよね?』
「! いっちゃん?!」
それは決して聞き間違えることのない声。小さい時から慣れ親しんだ好きな人の声だった。
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