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「波の音って好き。落ち着くの」
「ああ、わかる」
しばらく続いた沈黙を破り、ボソリと呟いた幸の言葉に僕は同意し、話を続ける。
「波の音を聞くと脳からα波を出て、リラックス効果があるんだって」
「凄い! 慎一君、物知りなのね」
幸は目をまん丸くし、好奇心でいっぱいの顔をした。ちょっと聞いた程度の知識を披露しただけなのに、尊敬の眼差しで見られる事に僕は少し恥ずかしくなってしまう。
「だから波の音は落ち着くのね」
「雨音や川のせせらぎなんかもリラックス効果があるんだって」
「へぇぇ! たしかに落ち着くかも。でも、波の音が一番好きだわ」
「僕も」
優しげな波の音を聞きながら、僕達は顔を見合わせクスリと笑った。
「α波のせいかしら。今日はいつもより喋ってるの」
「本当に?」
冗談めかしに言うと、幸はむぅと小さくて可愛らしい唇を尖らせ、反論する。
「本当よ! いつもはもっと暗いんだから!」
普段は暗いと威張られても……そのユニークな発想に僕は声を上げて笑った。
「慎一君の意地悪! …………あ、天使の梯子」
幸は斜め上の空を指差す。
僕も幸の人差し指の先に視線を移すと、厚い雲の切れ間から海に向かって、放射状に伸びる太陽光の柱が現れていた。
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