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「お世話になりました」
「大丈夫ですか? 随分、疲れているような……お気をつけて」
次の日の朝。帰り支度を済ませ、心配そうな女将さんにペコリとお辞儀をした僕は、あの浜にふらふらと向かう。
昨夜は一睡もできず、枕に顔を埋め、声を殺して泣き続けた。
せっかく出会ったのに。一目で恋に落ちたのに。あんなに楽しそうなのに。もうすぐ、いなくなるなんて。
僕の目に涙が滲む。泣いても泣いても枯れない涙に僕は笑った。
幸は僕の何百、何千倍も涙を流したに違いない。僕なんかの涙が枯れるわけない。
昨日と同じ場所に座り、何時間も穏やかな波の音を聞きながら、海を眺めていた。
ふと、空を見上げると天使の梯子が現れている。
幸せになれるなんて……嘘だ。
「やっぱり、慎一君は幸せになれるわ!」
僕の前に立ち、にっこり笑う幸の顔に驚き、立ち上がった。
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