夏の終わり、波の音、僕は天使に恋をした

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 大学生になって初めての夏休み。  夏はどこに行っても人が多くて嫌になる。人混みが苦手な僕は夏休みのほとんどをバイトにあて、そのバイト代で夏休み最後3日間、東京の喧騒から離れた田舎の海を見に行く事にした。  民宿の予約は行きの電車で難なく取れ、まずは宿に荷物を置きに寄る。海が見たいと言うと、民宿の女将さんが地元の人しか知らない浜辺を教えてくれた。 「夕食は6時ですので、ごゆっくり」  ニコニコと僕を送り出してくれた女将さんに会釈をし、メモ用紙に書いてもらった簡単な地図を頼りに辿り着いた浜辺は、とても穏やかな時が流れ、僕はひと目で気に入る。  波の音が心地良い。  砂浜に座り、ぼんやりしていた僕の視界にフワリと風に乗った白い何かが横切った。反射的に右手を伸ばしキャッチしたのは、青いリボンがついた真っ白い帽子。  どこから飛ばされてきたのだろうかと顔を上げると、今時珍しい長い黒髪の女の子が立っている。  風のいたずらが君と僕を出会わせた瞬間だった。  高校生くらいだろうか……肌は雪のように白く、体は枝のように細く、今にも消えてしまいそうな、どこか儚げな女の子。白いワンピースも相まって、本当に人なのか……そんな失礼な考えが頭に浮かんだ。 「ありがとう。その帽子、私のなの」  思わず、じっと見てしまった無遠慮な僕に少し困惑した彼女の声。我に返った僕は慌てて帽子を渡す。 「あ、ごめん」  ほっそりとしたしなやかな手で彼女は帽子を受け取ると、顔を柔らかく綻ばせた。 「東京から?」 「うん」 「そっかなって思った。私も東京からきたの」  屈託なく笑う彼女に僕は少し気後れしてしまう。  初対面の男にこんな簡単に微笑みかけたら、危ないよ……しかも人けもない場所で。もう少し警戒心を持った方がいいと思うんだけど。
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