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「あのさ、女の子が知らない男にあんまり話しかけちゃ駄目だよ」
余計なお世話と思いつつも、この無邪気さが心配でボソボソ伝えると、彼女はぷぅと頬を膨らませる。
「あら、私だってちゃんと選んで声を掛けてるわ。現にあなたは知らない男の人だけど、私の事心配してくれたじゃない」
「そりゃ……まぁ……」
「私、人を見る目はあるんだから」
両手を腰に当て、自慢げに話す姿が子供っぽく、僕はクスリと笑ってしまった。彼女は真顔になり、でも……と話を続ける。
「心配してくれたんだよね。ありがとう。これからは気を付けるわ」
「うん。そうした方がいい」
「で、もう私達は知り合いよね?」
いたずらっ子のように黒目をくりくりとさせ、帽子をかぶりながら小首を傾げた。
「わざわざ東京から人がいない海にきたの? あ、私も人の事、言えないわ」
大人しそうな見た目とは裏腹に、アハハハと口を開けて笑う彼女が可愛く見えて、僕はドキッとしてしまう。
初対面の女の子にドキドキするなんて……知らない土地で開放的になっているのかもしれない。
「……人混み、嫌いだからさ。夏の終わりの閑散とした海って好きなんだ」
「私も!!」
同志を見つけた喜びなのか彼女は身を乗り出し、僕の腕をガシッと掴んだ。興奮した様子で頬を上気させ、目を輝かせる。
「シーズンが去った海なんて何が面白いの?って皆は言うけど、この雰囲気が好きなの! すっごくわかる!!」
嬉しそうな彼女の澄んだ瞳が宝石に勝るとも劣らない美しさで、僕は身体にビリッと電気が走ったような衝撃を受けた。
雪のようで消えそうだ……なんて思ったけど、とんでもない。
コロコロ変わる豊かな表情、煌めく瞳、輝く笑顔。
旅先だから……なんて理由じゃない。一目惚れなんてあり得ないと、小説や漫画を笑っていた僕だったけど……
今、まさに僕は一目惚れしたのかも……しれない。
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