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幸の事を考えて、なかなか寝付けなかった僕は、朝ご飯の時間ギリギリに起きた。
食事が終わったであろう宿泊者の家族連れとすれ違い、おはようございますと挨拶を交わす。食堂では女将さんが配膳をしてくれながら、にこやかに話しかけてきた。
「おはようございます。よく眠れましたか?」
「おはようございます。すみません……時間ギリギリになっちゃって」
「大丈夫ですよ。ゆっくり召し上がって下さいね」
ホカホカの温かいご飯にお味噌汁の匂い。丁寧に巻かれた卵焼き。東京じゃあまり見かけないサイズの肉厚なアジの開き。佃煮の小鉢に海苔と食後のヨーグルト。
東京で一人暮らしの僕は、ザ・朝ご飯というメニューに箸が進む。
幸は心配になるくらい細いけど、ちゃんとご飯を食べてるのかな。
「今日はどちらへ?」
女将さんが僕の湯呑みにお茶を足し、テーブルに置いた。
「昨日の浜へ……」
「あら、気に入ってくれたなんて嬉しいわぁ。でも、海しかなくて、都会の人にはつまらないでしょう?」
「それが良いんですよ。そう言えば、昨日これを拾ったんですけど……」
僕はポケットからハンカチを出して広げる。
昨日、幸の姿が見えなくなり、僕も民宿に戻ろうと歩き始めた時、淡いピンクの貝殻が目に入った。少し力を入れただけでもパリンと割れてしまいそうな可憐な貝殻が幸のようで、気をつけながら指で拾い、ハンカチに包んで持ち帰った。
「まぁ、珍しい。桜貝なんて」
「桜貝?」
「昔はね、よく浜辺で拾ってたんですけどね。今はね……しかも、こんなに綺麗な形で拾えるなんて稀ですよ」
「そうなんですね」
「女将さーん」
厨房の方から聞こえた女将さんを呼ぶ声に、女将さんは僕にお辞儀をし、厨房に向かった。
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