夏の終わり、波の音、僕は天使に恋をした

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 僕は約束の時間より少し……というかだいぶ早めに来てしまった。幸を待たせたくはなかったし、何より僕がソワソワと落ち着かない。  幸は来てくれるかな……  不安を胸に海を眺めていたが、寝不足の僕に波の音は気持ち良すぎて、ウトウトしてしまう。  トンと右肩に何かが当たり、僕は目を覚ました。 「あ、起こしちゃった?」  にこっと笑う幸の姿に僕は眠気も吹っ飛び、胸を撫で下ろす。  ああ、来てくれた……  幸は今日も白いワンピースに白い帽子……昨日より更に肌の白さ……白いというより青白さが目立ち、やっぱり幸は消えてしまうんじゃないかと、僕の心がザワザワする。 「寝ちゃてごめん。幸を待っていたから起こしてもらって助かったよ」 「慎一君がいてホッとした。慎一君にからかわれてるのかなって心配だったから」 「からかうなんて……僕が幸に会いたいと思ったから……」  僕の言葉に幸の頬は紅色に染まる。僕も本音が口から出てしまった事に恥ずかしくなり、俯いてしまった。 「慎一君、女の子慣れしてる……」 「なっ……そんな事ない! 絶対ない! まぁ……高校で付き合ってた()はいたけど……」 「えっ……あ、そうよね。慎一君モテそうだもん……」 「……モテはしないけど……今はいないよ」  幸は顔を上げ、ふふっと笑う。その笑顔が無理しているようで、僕の心のざわめきはますます大きくなった。 「ほんとに?」 「ほんとに! そうだ、幸、いいもの見せてあげる」  僕は大事に持ち歩いていたハンカチを広げ、桜貝を出す。 「わっ……綺麗。ピンク色の貝? 本物?」 「本物。昨日、あの後、浜辺で拾ったんだ。宿の女将さんに聞いたら桜貝って言ってた」 「桜貝? 綺麗な名前ね。本当に桜の花びらみたい」 「調べたらさ、幸せを呼ぶんだって。だから(ゆき)(しあわ)せあげる」 「えっ!? いいの? ありがとう……」  幸はそっと受け取り、嬉しそうに微笑む。そして……唇を噛みながら顔を歪めた。 「大事に…………す…………る」  小刻みに震え、ハァハァハァと息が荒くなる顔面蒼白の幸に僕は驚き、肩を揺すった。 「幸っ!?」  
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