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仲間のロック
やるべき事が終わり、私はロックロールに参加できるようになった。 私は、やるべきことを終えると、ふと私と彼ら2人の違いに気づいた。彼ら2人は私と同じようにロックな人材ではある。テグさんは、手癖が悪く、常習的に盗みを働いているし、やっくんは、薬物中毒者だ。だが、それまで。私ほどロックでは無い。私はロックの信念の元、やるべき事をやり、彼らと違って他人を傷つけた。私と彼らは違うのだと、そう思った。しかしそれは違うと思い知らされる出来事が今後、起こることになる。
いつもの活動中、テグさんが席を外した。何やら急の電話のようだった。私もその後トイレに行こうとして席を外し、ちょうどそのトイレ近くでテグさんは電話をしていた。元奥さんだろうかと思っていたが、そうではなさそうな雰囲気の内容だった。電話相手の声は聞こえないので、テグさんのワードで判断するしかなかったが、テグさんは計画、実行、罰など何やら意味深な言葉を口にしていた。テグさんも私と同じロックを持っているのかもしれないと思い始めていると、今度はやっくんがその片鱗を見せた。やっくんは、見ての通り薬物中毒者で、薬物を扱っている悪い奴らとつるんでいた。そいつらがたまに、ここへ来てやっくんに変な絡みをしていた。やっくんに薬を押し付けるのではなく、なにやら話し込んでいるようだった。まるで悪巧みでもするように会話が意気投合していて、やっくんがまるで加害者のようだった。
私は2人のプライドベートを一切知らない。それは2人にとってもそうで、私のプライベートなことは一切言っていない。関与する気もなかったが、ロックのことであれば違う。
私は2人の後をつけて見ようと思ったこともあったが、後をつけたところで、そのような活動をしているところに遭遇できるかは分からないし、むしろその可能性は低く、この活動がない日にしていると思ったので、問い質すことにした。
「テグさん、やっくん。二人に話がある」
これは、賭けでもあった。まだ確信をもてたわけじゃなかったからだ。
私は自分のことから話し、相手へ打ち明けさせる展開へと持って行こうと思った。
「私、実は二人に言っていないロックな活動を一人でしているの。それを打つ明けようと思う」
私がそう言ってこれまで行ってきたロックを淡々と話し始めた。二人は最初どうしたのという面食らった感じだったが、私の真剣な話のトーンにどんどんとひたっていき、静かに頷きながら聞くようになっていた。
「ロックちゃんは、それを話して、私たちに何をして欲しいんだい?」
私が話終えると、テグさんがそう言ってくれた。テグさんは本当に話の理解が早くて良い。
「つまるところ、2人にも私に言っていないロックな秘密を打ち明けて欲しいんだ」
「それは、どうして?悩みの共有かい?」
「悩みの共有とは、また違うんだよ。ただ私は興味があって、知りたいだけなんだ。私のロックとどう違うのか。二人のロックを否定するつもりもないし、干渉するつもりもない」
「そうか、なら話すよ」
「やっくん、いいのかい?」
「テグさん、大丈夫だよ。それにロックちゃんのあんな決意見せられたら黙っていられない」
「分かった。じゃあ、私から話すよ」
「私は、妻と離婚したと言っていたよね。あの原因は妻の家庭内暴力だったんだ。私にはもちろん、娘にも、暴力を振るうことがあって、それで私は妻と離婚した。でも、妻はそれを隠蔽し、離婚は全て私の身勝手な行動を原因にしたんだ。それが私は許せなかった。でも何も出来なかった。私には力が無かったから」
「でも、力を得たんだよね。そうじゃないと、今の状態には至れてない」
「そうなんだ。古くからの知り合いで児童相談所の職員をやっている友人がいてね。無理やりの頼みで、そのような家庭内暴力を受けている可能性のある子の住所を教えて貰っている。そして、保護しようと活動しているんだ」
「でも、それは個人情報的にまずいんじゃ?」
「ああそうだよ。私は、犯罪者だ。黙っていて済まないね。でもそれだけじゃないんだ。私は、その無責任な親たちを連れて、説教をした後、それでも改心しなければ、同じような目に遭わせていたんだ」
「テグさんは、なんでそんなことしたの?」
「最初は正義気取りだったかもしれない。でも、段々と変わって言って、今では娯楽としてそういうことをしているんだ。きっとあの時できなかったことを、妻にしてやりたかったことを、散々他の人で出来るその楽しさにハマっていった。正義気取りなんてもってのほかだ。私はただの悪人で罪人で、愉快犯なんだ」
「それがテグさんのロックだったんだね」
テグさんのロックを例えるときっと、ポップロックだろう。愉快犯のテグさんには愉快なリズムがピッタリだ。
私は震え涙を零しながら話すテグさんに手を差し伸べた。ロックを持つものだからこそできる行動だと私は、そう自分で思った。心の底から勇気を出して話してくれたテグさんに寄り添った。
少し経ち、テグさんも落ち着いてくると、気まずそうにやっくんが話しだした。
「次は僕か。テグさんの後だとしょぼすぎて拍子抜けしちゃうかもしんないけど、簡潔に言うと、僕は、精神疾患を持った若者たちに、薬物を勧めてた。いやもっと分かりやすく言うと、所謂、メンヘラみたいな連中に薬物を飲ませて、幻想を見させてあげたり、時にはオーバードーズさせたんだ」
「オーバードーズって、死ぬんじゃないの?」
「死ぬ時もあるし、だいたい後遺症が残るだろうね。でも、オーバードーズさせる子は
死を望んだ子だけだよ」
「なんで、そんなことをしようと思ったの?」
「僕の親は、僕の存在をいなかったことにした。つまりはネグレクトと言うやつでね。一日中空腹で死ぬそうな時もあった。そして精神も病んだ。そんな時には、何もやる気が起きず、死を渇望することか、何かに依存して空腹を忘れることしか出来なかった。そんな想いをしている人たちを僕は救いたいし、させている人たちを地獄に落としたい。どちらも実現できるのが薬物だと思ってやっていた」
「やっくんは、薬物のことをどう考えてるの?」
「薬物は、とても都合のいい夢だと考えてる。辛い現実から逃げて、幸せな幻想を見させてくれるものさ」
「それがやっくんのロックなんだ」
やっくんのロックを例えると、サイケデリックロックだろう、幻想的な音楽が薬物中毒者が幻想を追いかけるということにピッタリだ。
「でも、二人は同じ仲間がいたんだよね?どう集めたの?」
「最近はネットが流行ってるからそこでかな」
ネットか。それもいいなと思った。私たちのロックな仲間を集めるサイトを創るのも楽しそうだ。そこでやる活動をまとめる。サイトがめんどくさかったらSNSでもいい。いつかじゃなくて、今やろうと思った。私はこの日から活動の最中に写真を撮り、それを説明文と共にロックンロール専用SNSを立ち上げて投稿した。反応もあり、まだ出会ったことの無い私たちの仲間たちは確かにいるという感覚があった。
互いのロックを知り、よりロックンロール活動へ、団結が深まったような気がした。その矢先、ついに初めてのロックな新しい仲間が見つかった。それは商店街を練り歩きながら、食べ歩きをしたり、買い物をしたりした後、宣伝歌を歌った後だった。
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