【壱】古都炎上

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東京駅6時発、のぞみ1号博多行。 新横浜を過ぎた頃。 ブラウンのシックなシートに、ベージュのライト。 レーヤの隣に真理、シートを回して、向かい合わせに鶴城が座っている。 初めてのグリーン車を愉しんでいた真理。 しかし、さすがに眠気には勝てず。 瞑りかけた目が、流れるテロップに気付いた。 (えっ?) それと同時に、携帯のバイブ音が鳴る。 眠るでもなく、目を閉じていたレーヤ。 素早くスマホを取り、耳に当て尋ねた。 「ルナ、どこがやられた?」 車窓から、明け行く景色を観ていた鶴城。 その言葉に顔を向け、青ざめた真理に気づく。 「そ…そんな…レー…ヤ」 震える声が見つめる先へ、振り向く鶴城。 テロップに流れた『…知恩院が全焼…』の文字。 「レーヤ!」 鶴城の声に、目を開いたレーヤ。 その瞳は真っ直ぐ、鶴城の目を見ていた。 「えっ?」 その険しい瞳に驚く鶴城。 次の瞬間、彼の携帯が鳴った。 「ツルギ…許せ」 スマホを耳に、呟いて歯を噛み締めるレーヤ。 その意味は、神崎清文の声で告げられた。 「そんなバカな❗️」 立ち上がった鶴城がスマホに叫ぶ。 絶望に崩れかけた真理の意識が、現実に戻った? 「ルナ…間に合わず、残念だ。念の為比叡山に、十分警戒する様に伝えといて」 「クソッ! 一体誰が⁉️」 感情を表に出さない鶴城が、怒りに満ちていた。 「ビシビシッ⚡️!」 窓ガラスに走る亀裂。 「ツルギ、 抑えて!」 すかさずレーヤが声をかけた。 その耳に、ルナから意外な言葉が伝わる。 (何っ!…東京に?) 細まるその目は、テロップを見ていた。 取り乱した鶴城に驚きながらも、(すが)る様な目でレーヤを見る真理。 「マリ心配するな。法成今東京にいて無事だ」 「えっ…どうして?」 『…ニュース速報。今朝6時頃、京都市東山区の知恩院が全焼する火事があり…』 繰り返すテロップに、ルナの情報はまだない。 今朝の6時を少し過ぎた頃。 知恩院の火事は、同じ東山区にある真言宗智山派 の総本山、智積院(ちしゃくいん)にも直ぐに知れた。 朝の読経をしていた座主の神崎貞生。 揺らいだ蝋燭の火を感じ、目を開けた。 そこへ。 騒がしく走り込んで来た僧侶。 「どこですか?」 「えっ…あ、知恩院が燃えています!」 「浄土宗総本山か…皆に…ん? どうした⁉️」 告げた僧侶の様子が、異質な気を放ち始めた。 その妖しい目が、本尊金剛界大日如来像を睨む。 彼の妹は、まだ20(はたち)であった。 必死の祈りも虚しく、先月病気で他界し、それ以来、彼は如来に手を合わすことをやめた。 「グゥオォ❗️」 「な! 何をする⁉️」「ガッ!」 止める神崎が、軽く押し飛ばされる。 その勢いのまま、如来像へ頭から激突した💥。 「グォゴン!」 鈍く重たい音が響く。 血を引きながら頭を離し、両の拳で殴りつける。 皮膚が裂け、骨が砕けてもそれは続く。 「くっ…術式か❗️」 表からも呻き声や激しい物音が聞こえた。 立ち上がった神崎の頬を、汗が流れた。 「ふ〜ん…さすがは座主。かなりの防術ね」 「この術式…『閻眼心呪』か!誰だお前は?」 僅かな隙をも許されない。 神崎にして、防御する他、闘術を出せないでいた。 「私はただ人の心を解放し、本来の欲望に力を貸してあげただけのこと。浄土宗も真言智山にしても、所詮は人。信仰など、ただの自我逃避にすぎず、哀れなものよ」 「解放だと? ふざけたことを。お前の術は善意や良識、罪悪感をも無と化し、俗悪に転嫁させるもの。哀れなるは、人の道を見失ったお前だ❗️」 「グッ…貴様!」 神崎が激しい闘気を放った。 一瞬、敵の術がた。 「壊・散・法・絶!…斬❗️」 呪文と共に、手にした大麻(おおぬさ)を振り抜く。 一閃の闘気の風が、その空間を切り裂いた。 「チッ!」 宙に舞った術師の後ろで、障子が弾け飛ぶ。 その隙に、表へと踏み出した神崎。 「ビシュビシュ!」 「ぐぁ!」 奇妙な形の手刀が、その両足を畳へ貫いた。 体中に稲妻に打たれた様な激痛が走る。 「体心縛封! 絶❗️」 「くっ…名を名乗れ、悪鬼め❗️」 動けぬ体を捨て、気迫で叫ぶ。 「ほぅ…まだ意識を保ち、声を出すとは。さすが天台宗智山派座主、神崎貞生。我が名は真姫羅(まきら)」 「お前が高野真言の刺客、真姫羅か!」 「ご存知とは光栄。なかなか楽しませて貰ったぞ。それは屍の骨から鍛えた物。葬って来た邪気の怒り。燃えて塵となれ。豪炎法爆、破❗️」 足を貫いた物から、神崎の体内に放出されていた瘴気が、爆発的な炎に変わった。 「グァァア‼️」 その叫びを最期に、一瞬で燃え尽きた。 炎は畳から、周りへと広がって行く。 「さて…次は如何なものか、フフ」 境内の寺社や堂も、全てが炎に包まれていた🔥。 その中を苦ともせず、平然と歩く真姫羅。 こうして、浄土宗に続き、真言宗智山派の総本山も、燃え尽きて行った。
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