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東京駅6時発、のぞみ1号博多行。
新横浜を過ぎた頃。
ブラウンのシックなシートに、ベージュのライト。
レーヤの隣に真理、シートを回して、向かい合わせに鶴城が座っている。
初めてのグリーン車を愉しんでいた真理。
しかし、さすがに眠気には勝てず。
瞑りかけた目が、流れるテロップに気付いた。
(えっ?)
それと同時に、携帯のバイブ音が鳴る。
眠るでもなく、目を閉じていたレーヤ。
素早くスマホを取り、耳に当て尋ねた。
「ルナ、どこがやられた?」
車窓から、明け行く景色を観ていた鶴城。
その言葉に顔を向け、青ざめた真理に気づく。
「そ…そんな…レー…ヤ」
震える声が見つめる先へ、振り向く鶴城。
テロップに流れた『…知恩院が全焼…』の文字。
「レーヤ!」
鶴城の声に、目を開いたレーヤ。
その瞳は真っ直ぐ、鶴城の目を見ていた。
「えっ?」
その険しい瞳に驚く鶴城。
次の瞬間、彼の携帯が鳴った。
「ツルギ…許せ」
スマホを耳に、呟いて歯を噛み締めるレーヤ。
その意味は、神崎清文の声で告げられた。
「そんなバカな❗️」
立ち上がった鶴城がスマホに叫ぶ。
絶望に崩れかけた真理の意識が、現実に戻った?
「ルナ…間に合わず、残念だ。念の為比叡山に、十分警戒する様に伝えといて」
「クソッ! 一体誰が⁉️」
感情を表に出さない鶴城が、怒りに満ちていた。
「ビシビシッ⚡️!」
窓ガラスに走る亀裂。
「ツルギ、 抑えて!」
すかさずレーヤが声をかけた。
その耳に、ルナから意外な言葉が伝わる。
(何っ!…東京に?)
細まるその目は、テロップを見ていた。
取り乱した鶴城に驚きながらも、縋る様な目でレーヤを見る真理。
「マリ心配するな。法成は今東京にいて無事だ」
「えっ…どうして?」
『…ニュース速報。今朝6時頃、京都市東山区の知恩院が全焼する火事があり…』
繰り返すテロップに、ルナの情報はまだない。
今朝の6時を少し過ぎた頃。
知恩院の火事は、同じ東山区にある真言宗智山派
の総本山、智積院にも直ぐに知れた。
朝の読経をしていた座主の神崎貞生。
揺らいだ蝋燭の火を感じ、目を開けた。
そこへ。
騒がしく走り込んで来た僧侶。
「どこですか?」
「えっ…あ、知恩院が燃えています!」
「浄土宗総本山か…皆に…ん? どうした⁉️」
告げた僧侶の様子が、異質な気を放ち始めた。
その妖しい目が、本尊金剛界大日如来像を睨む。
彼の妹は、まだ20才であった。
必死の祈りも虚しく、先月病気で他界し、それ以来、彼は如来に手を合わすことをやめた。
「グゥオォ❗️」
「な! 何をする⁉️」「ガッ!」
止める神崎が、軽く押し飛ばされる。
その勢いのまま、如来像へ頭から激突した💥。
「グォゴン!」
鈍く重たい音が響く。
血を引きながら頭を離し、両の拳で殴りつける。
皮膚が裂け、骨が砕けてもそれは続く。
「くっ…術式か❗️」
表からも呻き声や激しい物音が聞こえた。
立ち上がった神崎の頬を、汗が流れた。
「ふ〜ん…さすがは座主。かなりの防術ね」
「この術式…『閻眼心呪』か!誰だお前は?」
僅かな隙をも許されない。
神崎にして、防御する他、闘術を出せないでいた。
「私はただ人の心を解放し、本来の欲望に力を貸してあげただけのこと。浄土宗も真言智山にしても、所詮は人。信仰など、ただの自我逃避にすぎず、哀れなものよ」
「解放だと? ふざけたことを。お前の術は善意や良識、罪悪感をも無と化し、俗悪に転嫁させるもの。哀れなるは、人の道を見失ったお前だ❗️」
「グッ…貴様!」
神崎が激しい闘気を放った。
一瞬、敵の術がズレた。
「壊・散・法・絶!…斬❗️」
呪文と共に、手にした大麻を振り抜く。
一閃の闘気の風が、その空間を切り裂いた。
「チッ!」
宙に舞った術師の後ろで、障子が弾け飛ぶ。
その隙に、表へと踏み出した神崎。
「ビシュビシュ!」
「ぐぁ!」
奇妙な形の手刀が、その両足を畳へ貫いた。
体中に稲妻に打たれた様な激痛が走る。
「体心縛封! 絶❗️」
「くっ…名を名乗れ、悪鬼め❗️」
動けぬ体を捨て、気迫で叫ぶ。
「ほぅ…まだ意識を保ち、声を出すとは。さすが天台宗智山派座主、神崎貞生。我が名は真姫羅」
「お前が高野真言の刺客、真姫羅か!」
「ご存知とは光栄。なかなか楽しませて貰ったぞ。それは屍の骨から鍛えた物。葬って来た邪気の怒り。燃えて塵となれ。豪炎法爆、破❗️」
足を貫いた物から、神崎の体内に放出されていた瘴気が、爆発的な炎に変わった。
「グァァア‼️」
その叫びを最期に、一瞬で燃え尽きた。
炎は畳から、周りへと広がって行く。
「さて…次は如何なものか、フフ」
境内の寺社や堂も、全てが炎に包まれていた🔥。
その中を苦ともせず、平然と歩く真姫羅。
こうして、浄土宗に続き、真言宗智山派の総本山も、燃え尽きて行った。
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