【弍】覚醒

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【弍】覚醒

〜知恩院〜 広い敷地の周りに、沢山のパトカーが取り囲み、報道陣や被害者の身内などを制限している。 警官では到底手が足りず、京都府内にある全ての消防団の手も借りている始末。 更に追い討ちをかけた、智積院の火災が、その人員を削いでいた。 「倉沢刑事、火災現場は全て鎮火確認が終わりました。(ひど)ぅやられてますわ」 「宮部さん、ご苦労様です。日下部ご住職がおらんかったのが、せめてもの救いですなぁ」 現場を任された刑事課の倉沢と、付き合いの長い消防の宮部隊長が、境内焼け跡を眺めながら、苦言を交わす。 「おかしなのは、仏像が一つ残らず破壊してもうてることや。どないなってんやろうなぁ。火災で破壊するもんではないと思うてますが…」 「はて…とにかく調べてみますわ。とりあえず現場検証に何人か貸してもろうて、あとは智積院へお願いします」 「了解です。あちらはまだ、一部消化活動が続いとる様やから、部隊連れて行きますわ」 「助かります、ほな気ぃ付けて」 「倉沢刑事も、中はここよりキツイですから、難儀なことですが気ぃ付けて」 鼻の前で手を扇ぎ、軽く敬礼の仕草をして、宮部達は知恩院を後にした。 ここへ着いてから火災が起きた智積院へは、近隣の滋賀や大阪から、幾つかの消防隊が応援に回っていた。 「よっしゃ、皆んな覚悟して取り掛かるように! 振り分けた班には、消防の方に必ず1人付いてもらうこと。遺体の数は、現場毎に逐次この三門本部へ報告を。ほな、開始!」 京都府から集まった、大勢の捜査員達。 死体現場が初めての者が多い。 現場に漂う。 既に何人かは、耐えられずに吐いていた。 報告によると、境内にいたのは38人。 その全員が焼け跡の至る所に、焼けた(しかばね)となって転がっている。 その死臭立ち込める境内へと入って行く。 その現場はここで終わりではなく、もう一つ待っていると思いながら…。 一方…新幹線の中で、何とか落ち着いた2人。 そんな中、レーヤは疑念と事実に画策を巡らす。 真理は電話で父の法成と話をした。 これが久しぶりの会話とは、悲しいものである。 鶴城に至っては、まだ確認は取れていないが、生存確認もできないことから、父の死を覚悟した。 どう動くべきかは、先望術を持つ辻桐宗馬の指示に従うこととし、宗馬には兄の神樂を訪ねている、蒼樹に合う様指示を出したレーヤ。 渋滞でタクシーを途中で諦め、荷物をホテルへ運ぶ様に依頼して、あと2キロ程先の現場へ走る。
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