【弍】覚醒

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〜知恩院跡〜 本堂まで辿り着けたのは、15人の内8人。 消防隊員を含めて7名が気分が悪くなり、境内に設けた医療テントへ駆け込んだ。 刑事課で25年。 様々な死体や現場を見て来た倉沢。 それでも、死臭に慣れることはない。 腐敗臭とはまた違い、焼死体には独特のものがあり、無意識に一瞬、焼き肉を連想し、それがまた不快感を増幅させるのである。 「メンソールも簡易ガスマスクも、これじゃ効果あらへんなぁ全く。写真を撮ってから、物をどかして、遺体の確認だ」 「倉沢さん、確認も何も…焼け死んだのは見ての通りやないですか?」 同じ刑事課のタフで有名な小暮(こぐれ)。 早く済ませたいのは、倉沢とて同じであるが… 「境内にいたのは、修行中の若い僧侶がほとんどや。その38人全員が、誰一人として逃げ出せずに火事で焼死。逃げ場を失うビル火災じゃあるまいし、ありえへんやろぅ」 最初は宗教的な集団自殺か?とも考えた倉沢。 その場合は、1箇所に集まるのが慣例。 しかし現場の焼け跡に散らばった遺体。 更には、三門以外の御堂や寺社が全焼し、仏像が破壊されてはいるが、爆弾使用の痕跡はない。 「倉沢さん、ちょっとこれ見てください!」 カメラを片手に、鑑識の若い警官が呼んだ。 小暮と倉沢が、足場に気を付けながら近寄る。 「急に大声出して、何なん…や…」 面倒くさそうに遺体を見た小暮。 その異常な様は、一目で分かった。 「何だこりゃあ…こいつの腕はどこや?」 片腕は肘の辺りから先が無く、もう片方もぐちゃぐちゃに折れている。 「あそこや小暮。見てみぃ…まさか…だが」 その大きな仏像には頭が無く、首から片耳辺りまでが、へし折られた様に残っている。 ふと…不思議な物に気付き、小暮が近寄る。 そこに焼けて貼り付いた…人の腕。 「そんな…」 「材木の土台に、粘土を付けて掘り上げたもんや。だからほとんど燃えずに残ったんやな」 社物に詳しい倉沢。 「この腕は間違いなく、その遺体のものですね。しかし何故…」 「こっちの仏さんは、額が砕けてやがる。どうやら僧侶らは、素手で仏像を壊した様やな」 「ちょっと待ってくれ倉沢さん。僧侶が何で大事にしてる仏像を? しかも素手でなんか…」 「理由なんか分からんが…骨が砕け、その身が火に焼かれても、殴って殴って殴り続けた様やな」 倉沢の状況推察力は鋭く、署で有名であった。 ゾクリ…と背筋に冷たいものが走る。 「えっ⁉️」 写真を撮っていた彼が、驚きの声を上げた。 ビクッ! っとする小暮。 倉沢も彼を見る。 「どうかしたんか?」 「い…今なんか…遺体が動いた様な…」 前屈みでカメラから顔を上げ、倉沢へ向いた彼。 その片耳が、を聞いた。 「何っ⁉️、危ない逃げろ❗️」 「ビュガッ❗️」 彼が倉沢の声を聞けたかは分からない。 ほんの一瞬の出来事であった。 「ドンッ…」 呆然と見ていた小暮の足元に、何かが落ちた。 見上げる大きく開かれた目。 ゆっくり、ス〜っと光がなくなる。 「うひゃー❗️」 首を無くした体が、前屈みのまま崩れ落ちた。 そこに現れた(しかばね)。 「どうなってるんや…」 呟く倉沢が身構える。 恐怖に硬直した小暮。 「モゾッ…モゾモゾ」 その周りで、焼け跡から次々と起き上がり、這い出してくる屍体。 「…ギャー❗️」 「逃げろ❗️」 外から聞こえてくる悲鳴と叫び。 拳銃を抜き、寄ってくる屍体に向けて撃った。 「パンパンパン💥」 命中した腕や、僅かに残った肉片が千切れ飛ぶ。 しかし、その歩みは止まらない。 「小暮、脚を狙え❗️」 銃声で我に返った小暮が銃を構える。 必死で脚を狙うが、焦りと恐怖で当たらない。 (マズイ…こいつら) その状況を冷静に判断する倉沢。 完全に囲まれた2人。 ゆっくり、包囲を縮める屍体。 それは…『逃がさない』と告げていた。
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