【弍】覚醒

3/7
前へ
/58ページ
次へ
〜知恩院前〜 やっと辿り着いた3人。 人集(ひとだか)りを、必死で抑える警官達。 「あっ!」 踏み出した途端、つまずく真理。 「気をつけてください」 その手を握って離さない鶴城。 「34回…か」 ボソリと呟く麗夜。 「何がですか? レーヤ」 「ん? マリがつまずいた回数よ」 途中からは転ばない様にと、鶴城に手を繋がせた。 片想いの恋に赤面していた真理。 「他心眼ですか…なるほど見事ですね」 「わざとじゃないからね、レーヤ!」 「分かってるわよ。それだけ行かせたくないが、ここにってことだ」 そう言って、人混みの中へとスルリと入って行く。 慌てて後を追う2人。 (掻き分ける腕はないはずなのに…) レーヤの速さを不思議に思うツルギ。 何とか前に出た。 急に目の前に現れた、腕のないゴスロリ。 色んな意味で驚く警官💦 後から来たマリが、学生証を突きつける。 「私は日下部真理。ここの住職、日下部法成は私の父です。大切なものを頼まれて来ました。入れてください」 「えっ?…ご住職の? しかし…」 「浄土門主の使いを、ましてやその娘の総本山入りを、あなたは拒むと言うのですか?」 鶴城が追撃を放つ。 「お前、部署はどこだ?」 鋭い目で、レーヤが尋ねた。 「き、君たち…今は火災の現場検証中だ。入れるわけには…」 「彼の兄は神崎昴。警視庁凶悪犯罪対策本部の刑事だが…いいのか?」 対策本部の活躍は、よく耳にしている。 未だ縦の階級文化が色濃く残る警察組織。 心の動揺が見て取れた。 「因みに…その刑事の父は、もう一つの現場、智積院住職の神崎貞生だ。それから…私の父は、亡き天台座主の華僑林天膳。それでも止めるか?」 敢えて鶴城の父とは言わず、自分が天台座主を継いだとも言わないレーヤ。 彼にそれを考えさせることで、止めるべきかの判断を鈍らせる思惑。 その決心が揺らいだ時。 「パン💥、パンパン💥」 複数の銃声が、中から聞こえた。 「行くよ❗️」 躊躇する事なくレーヤが走り、2人も続く。 不意をつかれた彼。 「おいこら!」 声には出したが、既に止める気は失せていた。 それより無線で、中の様子を確認する。 境内に入った途端。 「うっ…これは」 3人の足が止まる。 悲鳴と銃声、そして(おぞ)ましい唸り声。 「式術『眼心網囲』!」 仁王立ちしたレーヤの足元。 その影から、見えない無数の線が地を走る。 「マリ、わね!ここは任せる」 レーヤの言う通り、マリにはそのが視えた。 そしてその中に居る人と…屍人も。 「マリ、どうした?」 鶴城の声は聞こえてはいない。 何かが…身体(からだ)の中から膨らんで来る感覚。 無意識に胸の前で掌を合わせる真理。 「防術『命守法輪波』散開!」 言葉と同時に片膝を立ててしゃがみ、そのに両掌を左右の地に着けた。 「ブァッ!✨」 無数の線を閃光が走る。 その光は、本堂の焼け跡にも届いた。 銃弾は尽き、囲まれていた倉沢と小暮。 素手で殴った小暮の拳は腐り始め、触れてはいけないことを悟った。 正に万事休すと諦めかけた時。 現れた光の輪が2人と屍人を隔てた。 輪に触れた屍人達が、瞬時に灰と化す。 それにより、死の歩みが止まった。 「何か知らねぇが、マジ助かったぜ」 「小暮、手は大丈夫か?」 ふと、痛みが消え、腐敗の侵食も止まっていることに気付いた。 「大丈夫だが…一体どうなっちまったんだ?」 周りから聞こえていた悲鳴や銃声も止んだ。 そして、屍人達が急に向きを変え、走り出す。 脆そうな焼け焦げた体。 それが決して弱くないことは、戦って分かった。 しかし… 「何て速さだ…生きてる者を、遥かに上回ってやがる。とにかく今の内に逃げよう」 「待て小暮❗️」 「えっ…」 「ヴァシャ!!」 振り向く間もなかった。 光輪から踏み出した脚を、が薙いだ。 踏み込む一歩を失った体が、前に倒れる。 「ぐぉぉおー❗️」 そこへ向かってくる。 それを睨みつけて吠えたのは、彼の刑事としての意地と、タフな資質が成すものであった。 「ヅバッ💥」 抵抗にさえ微塵も足りず。 一瞬にして、飛散する肉片。 (罠か…クソッ!) その凄まじい邪気に、光が明るさを失って行く。 20mは先、と思った時には直ぐ近くに…居た。 死を覚悟した倉沢。 しかし今の彼には、その恐怖以上に、目の前で仲間を殺られた怒りの方が優っていた🔥。
/58ページ

最初のコメントを投稿しよう!

74人が本棚に入れています
本棚に追加