【弍】覚醒

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京都東山の山麓にある浄土宗総本山、知恩院。 その本堂は、国宝の御影堂(みえいどう)であり、寺社が建ち並ぶ伽藍(がらん)の中段に位置する。 巧みな技法を駆使した柱が林立し、間口45m・奥行き35mの屋舎を、幅3mの外縁が囲む。 その壮大な姿は、幾らかの柱と土壁を残し、無惨な焼け跡と化していた。 辿り着いた鶴城は、直ぐにに気付いた。 そして、血を流しながらも対峙する倉沢がいた。 慎重に牽制しながら、そばに寄る。 「刑事さん…ですね? ここは私に任せて、これで傷口を強く押さえて、座っていてください」 医療知識はないが、かなりの深傷(ふかで)と分かった。 素早くTシャツを脱いで、倉沢に渡す鶴城。 「君は?」 突然現れた青年に驚く。 普通ならば、逃げろと追い出すはずが、彼には何故か…安心感を抱かせる趣きがあった。 「天台座主の話では、私は『雷神』だそうです」 さらり平然と応える。 その瞳で敵を睨み付け…笑みを浮かべた。 (…どうして?) 得体の知れない敵を前に笑む。 並の体格に素手、その余裕は如何(いか)なものか? 「来るぞ!」 幾度も(かわ)す中で、その気配を体が覚えた。 青年への疑念より、目の前の脅威。 「パンッ❗️」 水平に真っ直ぐ開いた腕。 それをそのまま、瞬時に真正面へ閉じた合掌。 「ビシュン✨!」 まるで空間を切り裂く様な衝波。 それが、動き出そうとしたへ放たれた。 出鼻を挫かれ、大きく飛び退(すさ)る。 「ズババババ💥」 少し右に避けた焼け跡を、細長い亀裂が走った。 「なるほど。これが鎌鼬(かまいたち)の正体か」 倉沢が感じたのは、敵が放った細い旋風(つむじ)。 それを、念を込めた合掌で叩き潰し、跳ね返した。 冷静に感心している鶴城。 自分にではなく、敵の攻撃に。 「何なんだ君は…」 「ですから、風神だと…そしてそれも、まんざら冗談では無い様です」 体の芯から湧き(いで)る闘志。 もうは、敵ではないとの自信。 逃げることを知らず、召喚されたモノノ()。 目を閉じ、スッと片指で天を差した鶴城。 その真正面へと(はし)る。 遥か天空で、渦巻き始めた黒雲。 鎌鼬の主が到達する僅か0.5秒前。 「天雷滅却(てんらいめっきゃく)・壊‼️」 鶴城が、腕を振り下ろした瞬間。 「バシンッ⚡️」 天から一筋の閃雷が、寸前の敵を直撃した。 眩い光が地に突き刺さり、穴を穿つ。 殺られたことに気付きもせず、断末魔の声を上げる間も無く、キラキラと宙に漂う塵と化した✨。 「い…今のは、君がやったの…か?」 信じられない光景に、怪我の痛みも忘れ、凛々しく立つ青年を見上げる倉沢。 「実に不思議です。私にあの様な力があったとはね。しかし…これもまた必然が成したものでしょう。風神に雷神か…果たしてその役目とは?」 その力に、(おご)り高ぶる鶴城ではない。 (華僑林麗夜。君の狙いは一体…) 「あっ! 直ぐに救急車を呼びますね💦」 今は考えている場合ではない。 急がねば、命に関わるのは間違いない。 「とにかく、助かった。君の名は?」 盾にしていた傷だらけの鉄板から手を放す。 アレを相手に、よく生き抜いたものだと感心した。 「私は神崎鶴城と申します。父は真言宗智山派の座主で、兄は警視庁直属の刑事をしています」 「まさか、神崎昴のことか…」 「そうだ、思い出しました。あなたを写真で見たことがあります。兄が大阪にいた頃ですね」 「親は坊主って言う話…マジだったとは…」 フッと笑みを浮かべ、座ったまま意識を失った。 携帯で救急車を呼んだ鶴城。 「兄が熱く語るのも納得です…倉沢刑事」 (さて…マリとレーヤは大丈夫かな?) 2人の『心波』はない。 それだけ何かに集中している、と理解した。 倉沢の隣に座り、救助を待つ鶴城であった。 その心には、ここ知恩院と、父の智積院を襲撃した敵への、怒りの炎が燃えていた🔥。
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