74人が本棚に入れています
本棚に追加
京都東山の山麓にある浄土宗総本山、知恩院。
その本堂は、国宝の御影堂であり、寺社が建ち並ぶ伽藍の中段に位置する。
巧みな技法を駆使した柱が林立し、間口45m・奥行き35mの屋舎を、幅3mの外縁が囲む。
その壮大な姿は、幾らかの柱と土壁を残し、無惨な焼け跡と化していた。
辿り着いた鶴城は、直ぐにソレに気付いた。
そして、血を流しながらも対峙する倉沢がいた。
慎重に牽制しながら、そばに寄る。
「刑事さん…ですね? ここは私に任せて、これで傷口を強く押さえて、座っていてください」
医療知識はないが、かなりの深傷と分かった。
素早くTシャツを脱いで、倉沢に渡す鶴城。
「君は?」
突然現れた青年に驚く。
普通ならば、逃げろと追い出すはずが、彼には何故か…安心感を抱かせる趣きがあった。
「天台座主の話では、私は『雷神』だそうです」
さらり平然と応える。
その瞳で敵を睨み付け…笑みを浮かべた。
(…どうして?)
得体の知れない敵を前に笑む。
並の体格に素手、その余裕は如何なものか?
「来るぞ!」
幾度も躱す中で、その気配を体が覚えた。
青年への疑念より、目の前の脅威。
「パンッ❗️」
水平に真っ直ぐ開いた腕。
それをそのまま、瞬時に真正面へ閉じた合掌。
「ビシュン✨!」
まるで空間を切り裂く様な衝波。
それが、動き出そうとしたモノへ放たれた。
出鼻を挫かれ、大きく飛び退る。
「ズババババ💥」
少し右に避けた焼け跡を、細長い亀裂が走った。
「なるほど。これが鎌鼬の正体か」
倉沢が感じたのは、敵が放った細い旋風。
それを、念を込めた合掌で叩き潰し、跳ね返した。
冷静に感心している鶴城。
自分にではなく、敵の攻撃に。
「何なんだ君は…」
「ですから、風神だと…そしてそれも、まんざら冗談では無い様です」
体の芯から湧き出る闘志。
もうこの程度は、敵ではないとの自信。
逃げることを知らず、召喚されたモノノ怪。
目を閉じ、スッと片指で天を差した鶴城。
その真正面へと疾る。
遥か天空で、渦巻き始めた黒雲。
鎌鼬の主が到達する僅か0.5秒前。
「天雷滅却・壊‼️」
鶴城が、腕を振り下ろした瞬間。
「バシンッ⚡️」
天から一筋の閃雷が、寸前の敵を直撃した。
眩い光が地に突き刺さり、穴を穿つ。
殺られたことに気付きもせず、断末魔の声を上げる間も無く、キラキラと宙に漂う塵と化した✨。
「い…今のは、君がやったの…か?」
信じられない光景に、怪我の痛みも忘れ、凛々しく立つ青年を見上げる倉沢。
「実に不思議です。私にあの様な力があったとはね。しかし…これもまた必然が成したものでしょう。風神に雷神か…果たしてその役目とは?」
その力に、驕り高ぶる鶴城ではない。
(華僑林麗夜。君の狙いは一体…)
「あっ! 直ぐに救急車を呼びますね💦」
今は考えている場合ではない。
急がねば、命に関わるのは間違いない。
「とにかく、助かった。君の名は?」
盾にしていた傷だらけの鉄板から手を放す。
アレを相手に、よく生き抜いたものだと感心した。
「私は神崎鶴城と申します。父は真言宗智山派の座主で、兄は警視庁直属の刑事をしています」
「まさか、神崎昴のことか…」
「そうだ、思い出しました。あなたを写真で見たことがあります。兄が大阪にいた頃ですね」
「親は坊主って言う話…マジだったとは…」
フッと笑みを浮かべ、座ったまま意識を失った。
携帯で救急車を呼んだ鶴城。
「兄が熱く語るのも納得です…倉沢刑事」
(さて…マリとレーヤは大丈夫かな?)
2人の『心波』は聴こえない。
それだけ何かに集中している、と理解した。
倉沢の隣に座り、救助を待つ鶴城であった。
その心には、ここ知恩院と、父の智積院を襲撃した敵への、怒りの炎が燃えていた🔥。
最初のコメントを投稿しよう!