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鶴城が鎌鼬を葬った頃。
邪気を祓い乍ら、国宝三門の二階に着いたレーヤ。
入母屋造、本瓦葺の二階二重門。
高さ24m、幅50m、日本最大級の木造門である。
「ほぅ…誰ぞや知らぬが、我が結界を無事に抜けるとは、大したものよ」
奥の暗がりに、ぼんやりと浮かぶ影。
「残眼か…お前の置き土産は、私の仲間が片付けた。なぜこの騒動に味方するのだ?」
そこに実体がないことは、気配で分かった。
そして、その者の強さも。
「騒動とは…これまた穏やかな物言いを。閻眼心呪のみならず、これだけの屍人を使いこなす力。暇つぶしに愉しむのもよかろう」
「ならば一興、その愉しみを足してやろう」
差し込む光の影に片膝を着く。
そこから生まれた二つの腕が、ダブついた衣装の中を通り、アームカバーを抜けた。
「無双手腕『擬念相殺』❗️」
「パシン💥」
唱えたと同時に、両掌を振り翳し、床を叩いた。
「何っ⁉️」
意表を突かれ、驚愕する思念。
その一瞬で、レーヤが発した念波が、敵の残した幻影を掻き飛ばした。
「高みの見物に、付き合う気はない」
その敵が気にはなったが、今は現状の危機を収めることが優先である。
(レーヤ、もう限界💦。何とかして!)
(マリ、もう少し耐えてくれ)
まだ術を使いこなせない真理。
多数の屍人を、一人で留め置くのは厳しい。
(クソッ! どこだ?)
唯一、燃やされずに残った三門。
残したのには、残さねばならない理由がある。
長い二階の隅々まで、無数の腕を放つレーヤ。
その一つが感じた違和感。
丁度その時。
「一体何があったんだ⁉️」
応援の警察部隊が到着した。
正面を避け、三門側から入って来のである。
直ぐに腕を消し、怪しい場所へと向かう。
そこへ、警官隊が上がって来た。
「動くな❗️」
誰もいないと思っていた場所。
そこに、まさかのゴスロリ娘が1人。
咄嗟に拳銃を向けた刑事の瀬川。
余りの意外さに、目が点になる。
「みんな拳銃を下ろせ。君…何があったんだ? 大丈夫なのか?」
「何があったかは後にして、私はいいが、あなた達はそこで止まれ。来れば、大丈夫ではない」
この惨状が故、有無を言わせぬ響き。
レーヤの存在に、救いさえ求めてしまう瀬川。
「何を言ってのや、ガキが」
まだ若い刑事の加藤が、不用意に踏み出した。
「バカ❗️」瀬川の声は間に合わず。
「シュパッ!」空を斬る様な鋭音。
「ビュン!」「グッ…」
「えっ?」
余りの速さについていけない加藤。
直ぐ目の前に、レーヤがいた。
「…下がれ」
その言葉と鋭い目に、退がる加藤。
離れて起きた事態に気付く。
「君…大丈夫か?」
切り裂かれた白いヒラヒラスカート。
その足元の床に、一筋流れる落ちる赤い血。
「ここはまだ、ヤバい結界の中。下の人みたいになりたくなければ、私を信じて下へ戻って」
「き…君は、俺の代わりに…」
「ガキの忠告も少しは聞くことね。私は防御できるから大丈夫。これ以上はもう…殺させない️❗️」
「おい皆んな、一旦退却だ。ほら、急げ?」
瀬川の指示に従い、下りていく警官隊。
それを確認して、異質な空間を睨みつける。
(これは、さっきのヤツとは違う…屍人使いか)
それを悟ったレーヤ。
(しまった❗️)
階下から聞こえる叫び声と銃声。
瀬川達を、さっきまで屍だった警官達が襲った。
「クソッ!」
怒りに燃えるレーヤ。
その影から、無数の腕が現れた。
「南無・妙・法蓮・華!『崩縛真破羅・炎』、卑き呪縛よ、消えろ❗️」
紫炎を纏った無数の腕が渦を巻き、その空間に張られた結界を一網打尽に断ち切り、燃やし尽くす。
「ぐっ…」
同時に、その呷りを受け、レーヤの衣服と共に皮膚が、幾筋も細く切り裂かれた。
小さな血飛沫が、紅い霧の様に舞う。
それに耐え、開かれた道を疾るレーヤ。
(この雅な木目の床には、似合わね敷物)
新たな腕が、床に敷かれた布を引き剥がす。
その床に描かれたモノ。
「これは!…六壬栻盤。陰陽師か⁉️」
西洋占星術の『ホロスコープ』に似た 『興』と呼ばれる十二支を描いた台座に、『湛』と呼ぶ十二神、十二天将を記した式盤。
「いや…これは」
その所々に散りばめられた文字。
臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前。
(やはり、真言密教か)
久我山宗守の顔が思い浮かんだ。
<六壬栻盤>
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