【弍】覚醒

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鶴城が鎌鼬(かまいたち)を葬った頃。 邪気を祓い乍ら、国宝三門の二階に着いたレーヤ。 入母屋造(いりもやづくり)本瓦葺(ほんがわらぶき)の二階二重門。 高さ24m、幅50m、日本最大級の木造門である。 「ほぅ…誰ぞや知らぬが、我が結界を無事に抜けるとは、大したものよ」 奥の暗がりに、ぼんやりと浮かぶ影。 「残眼(のこりめ)か…お前の置き土産は、私の仲間が片付けた。なぜこの騒動に味方するのだ?」 そこに実体がないことは、気配で分かった。 そして、その者の強さも。 「騒動とは…これまた穏やかな物言いを。閻眼心呪(えんがんしんじゅ)のみならず、これだけの屍人(しびと)を使いこなす力。暇つぶしに愉しむのもよかろう」 「ならば一興、その愉しみを足してやろう」 差し込む光の影に片膝を着く。 そこから生まれた二つの腕が、ダブついた衣装の中を通り、アームカバーを抜けた。 「無双手腕『擬念相殺(ぎねんそうさい)』❗️」 「パシン💥」 唱えたと同時に、を振り翳し、床を叩いた。 「何っ⁉️」 意表を突かれ、驚愕する思念。 その一瞬で、レーヤが発した念波が、敵の残した幻影を掻き飛ばした。 「高みの見物に、付き合う気はない」 その敵が気にはなったが、今は現状の危機を収めることが優先である。 (レーヤ、もう限界💦。何とかして!) (マリ、もう少し耐えてくれ) まだ術を使いこなせない真理。 多数の屍人を、一人で留め置くのは厳しい。 (クソッ! どこだ?) 唯一、燃やされずに残った三門。 残したのには、残さねばならない理由がある。 長い二階の隅々まで、無数の腕を放つレーヤ。 その一つが感じた違和感。 丁度その時。 「一体何があったんだ⁉️」 応援の警察部隊が到着した。 正面を避け、三門側から入って来のである。 直ぐに腕を消し、怪しい場所へと向かう。 そこへ、警官隊が上がって来た。 「動くな❗️」 誰もいないと思っていた場所。 そこに、まさかのゴスロリ娘が1人。 咄嗟に拳銃を向けた刑事の瀬川。 余りの意外さに、目が点になる。 「みんな拳銃を下ろせ。君…何があったんだ? 大丈夫なのか?」 「何があったかは後にして、私はいいが、あなた達はそこで止まれ。来れば、大丈夫ではない」 この惨状が故、有無を言わせぬ響き。 レーヤの存在に、救いさえ求めてしまう瀬川。 「何を言ってのや、ガキが」 まだ若い刑事の加藤が、不用意に踏み出した。 「バカ❗️」瀬川の声は間に合わず。 「シュパッ!」空を斬る様な鋭音。 「ビュン!」「グッ…」 「えっ?」 余りの速さについていけない加藤。 直ぐ目の前に、レーヤがいた。 「…下がれ」 その言葉と鋭い目に、退がる加藤。 離れて起きた事態に気付く。 「君…大丈夫か?」 切り裂かれた白いヒラヒラスカート。 その足元の床に、一筋流れる落ちる赤い血。 「ここはまだ、ヤバい結界の中。下の人みたいになりたくなければ、私を信じて下へ戻って」 「き…君は、俺の代わりに…」 「ガキの忠告も少しは聞くことね。私は防御できるから大丈夫。これ以上はもう…殺させない️❗️」 「おい皆んな、一旦退却だ。ほら、急げ?」 瀬川の指示に従い、下りていく警官隊。 それを確認して、異質な空間を睨みつける。 (これは、さっきのヤツとは違う…屍人使いか) それを悟ったレーヤ。 (しまった❗️) 階下から聞こえる叫び声と銃声。 瀬川達を、さっきまで屍だった警官達が襲った。 「クソッ!」 怒りに燃えるレーヤ。 その影から、無数の腕が現れた。 「南無・妙・法蓮・華!『崩縛真破羅(ほうばくまはら)(えん)』、(いやし)き呪縛よ、消えろ❗️」 紫炎を纏った無数の腕が渦を巻き、その空間に張られた結界を一網打尽に断ち切り、燃やし尽くす。 「ぐっ…」 同時に、その(あお)りを受け、レーヤの衣服と共に皮膚が、幾筋も細く切り裂かれた。 小さな血飛沫(ちしぶき)が、紅い霧の様に舞う。 それに耐え、開かれた道を疾るレーヤ。 (この雅な木目の床には、似合わね敷物) 新たな腕が、床に敷かれた布を引き剥がす。 その床に描かれたモノ。 「これは!…六壬栻盤(りくじんちょくばん)。陰陽師か⁉️」 西洋占星術の『ホロスコープ』に似た 『()』と呼ばれる十二支を描いた台座に、『(たん)』と呼ぶ十二神、十二天将を記した式盤。 「いや…これは」 その所々に散りばめられた文字。 (りん)(びょう)(とう)(しゃ)(かい)(じん)(れつ)(ざい)(ぜん)。 (やはり、真言密教か) 久我山宗守の顔が思い浮かんだ。 <六壬栻盤> 1f36165b-d207-4705-88cd-4278da1cf206
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