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【参】陥落
三人を乗せて、智積院に着いたパトカー。
まだ幾つか燻る煙が見えた。
「すまないが、そのまま止まらず、次の信号の手前で左に曲がってください」
「レーヤ、どうして?」
鶴城よりも先に真理が問う。
その問いに答えるより先に、警官が応えた。
「了解です」
その声に、緊張感を感じた鶴城。
「尾行…ですか?」
「はい。知恩院を出てから2台のワゴン車が、入れ替わりながらついて来てます」
「さすが瀬川さん。腕利きを付けてくれた様ね」
バックミラーで目を合わすレーヤと彼。
「尾行に気付くとはさすが。天台座主ってのは伊達じゃないか。私はこれでも刑事課の一員でね。ちょっと派手にやらかして、一時的に警官勤務に回されちまっただけのこと」
「まぁ、簡単に解放しないのは当然。私達は重要参考人なんだから。ですよね、瀬川さん?」
「確かに。その耳の通信機は、あの刑事さんがしていたものと同じですね」
そこは刑事を兄に持つ鶴城。
チェックに抜かりはない。
「聞こえてるわよね、瀬川さん。せっかくだから、もう少し彼を貸してもらうわ」
「OKって言ってます。さて、行きますよ」
ウィンカーを出した瞬間。
次は真理が動いた。
「ダメ❗️真っ直ぐダッシュよ❗️」
叫びながら、運転席の後ろから彼の肩を掴む。
「えっ?」
前方の信号機は、黄色に変わったところ。
驚く彼の意識を無視し、足がアクセルを踏み込む。
「うわぁあ!」
急加速に慌てた様子で、続くワンボックス。
赤信号に変わる交差点へ突入した。
鳴り響くクラクション。
パトカーが幸いし、ギリギリすり抜けた。
「キキキキー! ガシャン💥」
右側からの車はかろうじてかわした尾行車。
急ブレーキで、中央分離帯の角に突っ込んだ。
「マリ、この辺の道に詳しいのですか?」
「い…いえ💦 ツルギ、体が勝手に」
「ほぅ…なるほど。曲がった先は袋小路ですね」
すかさずカーナビで確認した彼。
感心した声で告げた。
(さすが冷静…)
「って言うか❗️ 今のは何だ⁉️ 君がやったのか? 死ぬかと思ったぜ💦 勘弁してくれよな!」
(…でもないか💧)
「マリには人の危機を感知して、無意識に回避する能力があってね。しかし…触れてコントロールできるとは知らなかった。不可抗力だ、許せ」
「不可抗力って言うか?」
「ところで、何と呼べば良いですか?」
正真正銘、冷静な鶴城が尋ねた。
彼とは今暫く行動を共にすると思い。
「えっ? あ…私は村上です」
「じゃあ村上さん、よろしく。瀬川さん、彼の身は守りますので、ご心配なく」
「了解…だそうです」
瀬川から、三人はまだ学生と聞いた村上。
警察が守られる側か? と思い、苦笑いで告げた。
「マリにツルギ、悪いけど先に用事を済ませ方が良さそうだ。寺へは後でいいか?」
「えぇ、どうせあの状況では、父に会うことはできず、マスコミの餌になるだけ。それよりも、犯人を突き止めたいと思います」
「私も同じ。父は東京にいて無事だけど、寺の全員を殺し、その遺体まで操った奴が憎いわ!」
復讐心に燃えている二人。
「犯人探しは警察に…って言いたいところだが、このヤマは手に負えそうにない。ここだけの話、君達に頼るしかない。事情聴取は適当に報告しとくよ。犯人ではないし、急ぐこともないだろう」
「できれば警察は、深入りしない方が良い。関わると命を落とすだけでなく、敵に利用される」
もう一度、バックミラーで目を合わせた。
「だな…それでどちらへ?」
一瞬間を置くレーヤ。
珍しいと思い、その顔を見る真理と鶴城。
「天台宗 蓮華王院本堂、三十三間堂へ頼む」
「三十三間堂…」
まだ真理ほどレーヤを知らない鶴城。
「千手観音ね…レーヤ」
レーヤの腕と、1002体目を知る真理。
「了解!」
行き先を知り、ふと…ラジオのニュースを付けた。
「おっ、ハイジャックはもう解決した様だな」
負傷者は出たものの、死者は銃で自殺した犯人ただ一人、という結末を伝えていた。
「羽田での、風変わりなハイジャックか…」
新幹線の中で聞いた事件である。
しかし…
「いや、あれは警視庁のお出ましで、あっという間に解決したよ。今報じられてるのは、関空(関西空港)でのハイジャックだ。何れも機内搭乗警察による犯行ってのは珍しい。新手のテロか何かか? まぁ、偶然にしろ人騒がせなこった」
「ほぼ同時に、似たハイジャックが? 偶然にしてはおかしいですね」
「気になるなら、お兄さんに聞いてみたら?」
「あぁそう言えば、神崎刑事の弟さんでしたね」
「運転に集中を」
その話を、レーヤが断ち切る。
「ハイジャックは警察に任せて、今はこっちに集中だ。気を抜くと、いつ殺られるか分からない状況。その前に、やらねばならねことがある」
抑揚のない言葉に、その神妙さが伝わる。
丁度、三十三間堂の標識が見え始めていた。
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