74人が本棚に入れています
本棚に追加
〜中央区大場〜
それは紗夜達が、羽田に到着した頃。
警視庁凶悪犯罪対策本部。
30階建てのビルに、緊急警報が鳴り響いた。
『羽田に続き、関西国際空港でハイジャック事件発生。同時多発テロの可能性あり。国際線を持つ空港と連携し、警戒体制をとる様に』
その放送は、刑事課長の鳳来咲の通信機を通じて、刑事課の全員に聞こえていた。
「関空でもハイジャックだと?」
「淳、今はここを片付けるのが先よ」
宮本淳一と妻の紗夜は、交渉班の通信車両で、滑走路に停まった、ユナイテッド航空232便の近くまで来ていた。
「昴、状況はどうだ?」
「どうやら単独犯の様で、コックピットに入り、客室乗務員1人と機長、副操縦士、それと副操縦士の検査官、この4人を人質にしています」
刑事課から、神崎昴が淳一に答えた。
熱源探知カメラと望遠カメラを搭載した新型ドローンを操り、中の様子を監視している。
「こちら桐谷と真田。今真後ろから近付いているわ。昴さん、多分空港のシステムには侵入済みよね?遠隔操作で後ろの貨物用ハッチを開けて」
「えっ💦 なんで? それって違法ですけど…」
(バレバレか…)
「いいからさっさとやって! 今真田さんが、乗客を移送するバスを、後方から誘導してるから」
「分かりましたよ」
ハッキングしたシステムで、機体後部にある貨物用のハッチを開く昴。
その一部に飛び上がって手を掛け、身軽な動きで機内へと侵入する桐谷。
「紗夜さん、機内へ入りました。乗客は後部の貨物用ハッチから救出します。彼の足止めを!」
「了解、気をつけて」
そう言って交渉班の方を向く。
「コックピットに繋いで下さい」
「それが、向こうで切られていて無理なんです」
「おい、それじゃ交渉班の意味ねぇぜ」
淳一が紗夜に目で合図する。
うなずく紗夜。
「昴さん、ドローンをコックピット前に。スピーカーで話を伝えるわ」
言いながら車のドアを開ける。
「屋根から直接顔を見て話すから、見える位置へ車を移動させてください」
「おいおい紗夜💦」
慌てる淳一を残し、開けたドアを足場にして、素早く車の屋根に上がった。
(やはり何かおかしい…)
管制塔や周りの建物を見渡す紗夜。
既に特殊急襲部隊SAT(Special Assault Team)が配置についている。
「桐谷さん、銃を所持したハイジャック犯が、コックピットに立て篭もるなんてことが?」
「日本人なら分からないけど、彼はロス市警出身よ。あり得ないわね」
CIAエージェントとして、数々のテロや凶悪犯罪に対処してきた桐谷である。
聞いていた咲が割り込む。
「そうよね…まるで撃ってくださいって言ってる様なもの。自殺願望なら、こんな無茶苦茶なハイジャックなんてやらないだろうし」
刑事課のモニターには、昴が操作するドローンからの映像で、犯人がはっきり映っている。
「昴さん、CAPSはどう?」
Criminal analysis prediction system、通称『CAPS 』。
ある事件で関わった天才科学者が開発し、刑事課に導入された「犯罪者分析予知システム」である。
「それが…何も出ないんです」
「何もって…昴、いつも何とか率が何パーセントとか、何とか思考がどうとかこうとか、色々あるじゃねぇか」
「そんなこと言われても淳さん、本当に何も出ないんですよ! 初めてです、こんなの」
困惑する通信に、呟きが混ざる。
「無我無心」
「はい? 誰なのよ、これ以上ややこしくしないでくれるかな?」
咲のところには、関西国際空港の状況から、京都で起きている2件の火災の情報も入っていた。
「つい割り込んで悪かったね、花山です」
「えっ?…うそ、花山総監! まだ比叡山では💦」
「ええ、延暦寺でご厄介になっています」
「咲さん、この通信機は TERRAの衛星を使ってるから、全世界どこでも通じてます」
「あっ…💦」
昴に言われて思い出した咲。
「花山総監、つまり彼は今、彼ではないと?」
紗夜が感じていた違和感。
それが、現実味を帯びて来た。
最初のコメントを投稿しよう!