【参】陥落

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〜中央区大場〜 それは紗夜達が、羽田に到着した頃。 警視庁凶悪犯罪対策本部。 30階建てのビルに、緊急警報が鳴り響いた。 『羽田に続き、関西国際空港でハイジャック事件発生。同時多発テロの可能性あり。国際線を持つ空港と連携し、警戒体制をとる様に』 その放送は、刑事課長の鳳来咲の通信機を通じて、刑事課の全員に聞こえていた。 「関空でもハイジャックだと?」 「淳、今はここを片付けるのが先よ」 宮本淳一と妻の紗夜は、交渉班の通信車両で、滑走路に停まった、ユナイテッド航空232便の近くまで来ていた。 「昴、状況はどうだ?」 「どうやら単独犯の様で、コックピットに入り、客室乗務員1人と機長、副操縦士、それと副操縦士の検査官、この4人を人質にしています」 刑事課から、神崎昴が淳一に答えた。 熱源探知カメラと望遠カメラを搭載した新型ドローンを操り、中の様子を監視している。 「こちら桐谷と真田。今真後ろから近付いているわ。昴さん、多分空港のシステムには侵入済みよね?遠隔操作で後ろの貨物用ハッチを開けて」 「えっ💦 なんで? それって違法ですけど…」 (バレバレか…) 「いいからさっさとやって! 今真田さんが、乗客を移送するバスを、後方から誘導してるから」 「分かりましたよ」 ハッキングしたシステムで、機体後部にある貨物用のハッチを開く昴。 その一部に飛び上がって手を掛け、身軽な動きで機内へと侵入する桐谷。 「紗夜さん、機内へ入りました。乗客は後部の貨物用ハッチから救出します。彼の足止めを!」 「了解、気をつけて」 そう言って交渉班の方を向く。 「コックピットに繋いで下さい」 「それが、向こうで切られていて無理なんです」 「おい、それじゃ交渉班の意味ねぇぜ」 淳一が紗夜に目で合図する。 うなずく紗夜。 「昴さん、ドローンをコックピット前に。スピーカーで話を伝えるわ」 言いながら車のドアを開ける。 「屋根から直接顔を見て話すから、見える位置へ車を移動させてください」 「おいおい紗夜💦」 慌てる淳一を残し、開けたドアを足場にして、素早く車の屋根に上がった。 (やはり何かおかしい…) 管制塔や周りの建物を見渡す紗夜。 既に特殊急襲部隊SAT(Special Assault Team)が配置についている。 「桐谷さん、銃を所持したハイジャック犯が、コックピットに立て篭もるなんてことが?」 「日本人なら分からないけど、彼はロス市警出身よ。あり得ないわね」 CIAエージェントとして、数々のテロや凶悪犯罪に対処してきた桐谷である。 聞いていた咲が割り込む。 「そうよね…まるで撃ってくださいって言ってる様なもの。自殺願望なら、こんな無茶苦茶なハイジャックなんてやらないだろうし」 刑事課のモニターには、昴が操作するドローンからの映像で、犯人がはっきり映っている。 「昴さん、CAPSはどう?」 Criminal(クリミナル) analysis(アナリシス) prediction(プロダクション) system(システム)、通称『CAPS (キャップス)』。 ある事件で関わった天才科学者が開発し、刑事課に導入された「犯罪者分析予知システム」である。 「それが…何も出ないんです」 「何もって…昴、いつも何とか率が何パーセントとか、何とか思考がどうとかこうとか、色々あるじゃねぇか」 「そんなこと言われても淳さん、本当に何も出ないんですよ! 初めてです、こんなの」 困惑する通信に、呟きが混ざる。 「無我無心」 「はい? 誰なのよ、これ以上ややこしくしないでくれるかな?」 咲のところには、関西国際空港の状況から、京都で起きている2件の火災の情報も入っていた。 「つい割り込んで悪かったね、花山です」 「えっ?…うそ、花山総監! まだ比叡山では💦」 「ええ、延暦寺でご厄介になっています」 「咲さん、この通信機は TERRA(テラ)の衛星を使ってるから、全世界どこでも通じてます」 「あっ…💦」 昴に言われて思い出した咲。 「花山総監、つまり彼は今、彼ではないと?」 紗夜が感じていた違和感。 それが、現実味を帯びて来た。
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