【参】陥落

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羽田のハイジャックを知り、帰り支度を終えかけたところに、知恩院の火災。 帰りそびれた花山である。 「ここの住職だった方から、話を聞いたことがあります。彼の様相が、それに重なったもので」 それを説いたのは、華僑林天膳であった。 タブレットで映像を見ていた花山。 「無我無心…催眠状態ってことですか?」 「真田さん、それならCAPSの説明もつきます」 「間違いないわ」 コックピットの真正面、20m先。 ライトバンの屋根に立ち、紗夜が告げた。 「彼の心には、何も」 紗夜の持つ読心能力も、思念による語りかけも、全く意味を成さず、心音だけが感じられた。 「紗夜さん、ドローンと通信機を回線22で繋ぎました。彼の名前はフランク・カーティス。機長は、ハロルド・マーシャルです」 「真田です、全員救出まで5分」 既に3台目のバスが待避場所へ向かい、最後の1台となっていた。 「私はコックピットのドアで待機中よ」 桐谷が囁く。 拳銃を構え、突入態勢で待つ。 「フランク、警察の宮本です。聞こえますか? 」 その目が紗夜を見た。 座らせている客室乗務員に、銃を押し当てる。 「マズいわね…」 モニターを見ながら咲が呟く。 (ハロルド、驚かないで。警視庁の紗夜です。乗客と他の乗務員は、全員救出しました) 突然頭の中に声に、周りを見渡す。 (君…なのか?) 機長の目を見てうなずく紗夜。 と…その時。 (オマえ…ナニもノダ?) ズキン! 地鳴りの様なに、右掌が疼いた。 (マぁイい、モウよウズミだ) 「フランク、ダメ❗️」 (お願い、助けて❗️) に目を覚まされたへ祈る紗夜。 突き出した右掌から、何かが抜ける感覚。 コックピットで、銃を自分の頭に向けたフランク。 その目が恐怖に目覚めた。 「なにっ⁉️」 目の前に浮かぶ少女。 凄まじい怒りの形相で、銃を持つ手首を掴む。 「桐谷さん!」 「バシュバシュ💥」 ドアの構造は知っている。 ロック部分を銃弾で打ち抜き、中へ飛び込んだ。 「何だ、どうなってる⁉️」 パニック状態のフランクを壁に押さえつけ、銃を奪って後ろ手に手錠を掛けた。 (これは…紗夜か?) その手首に残った小さな手の跡。 「皆さんお疲れ様、もう大丈夫です」 警視庁バッジを見せながら、ニコリと微笑む。 皆んなが、ホッとした時。 「ガガーン💥❗️」 大きな激突音が鳴り響いた。 「バスジャック発生❗️」 悲鳴の中、真田の声が耳の通信機に届く。 ドローンがそれを追った。 「何やってくれてんのよ⁉️ 至急空港封鎖を❗️」 咲の(げき)が飛ぶ。 ハイジャックで混乱した状況の羽田。 それでも動いている空港を、封鎖するのは難しい。 「真田! 犯人は?」 「咲さん…バスの運転手です。それも2台」 モニターに、暴走する2台の大型バスが映る。 バリケードを吹き飛ばし、滑走路エリアから出た。 屋根から降りた紗夜が乗り込む。 「追って!」 「は、はい!」 交渉班とは違う緊迫感。 慌てながらも、アクセルをベタ踏みした。 逃げ回る人達を気にもとめず、停車している車や生垣を跳ね飛ばしながら、真っ直ぐに走る2台。 「凄いわね、まるで装甲車並み」 「咲さん、感心してる場合じゃないです」 「分かってるわよ、クソッ!」 進行方向には、ショッピングモールの羽田エアポートガーデンがあった。 表にいたパトカーが集まって、バリケードを作るが、数が足りない。 「ダメだ、逃げろ!」 「ヅガガーンッ💥」 弾き飛ばされるパトカー。 でも1台のバスは、それによりコースが逸れた。 しかし… 直ぐ先に、観光バスから降りた一団がいた。 転び掛かる乗客を支えながら、前まで来た真田。 「皆さん掴まって! 」 「ダン!」 運転手に体当たりし、ハンドルを奪う。 「うぉおおー❗️」 力一杯にハンドルをきる。 「ギャギャギャギャ…✨」 大きなタイヤが、けたたましい悲鳴を上げる。 満員の重たい車体が幸いし、転倒は免れた。 「クッ❗️」 運転手が、慌てて急ブレーキを踏んだ。 汗まみれで真っ青な顔。 「…た、助かった」 運転手の呟きが、一瞬気になった。 でも今はそれどころではない。 「1台は無事です。彼も犯人ではありません」 運転手の正気を確認し、ドアのスイッチを叩く。 開いたドアを飛び降りた真田が、もう1台を見た。 「ガガーン💥ガシャーン💥❗️」 「クソッ!」 激しい破壊音を立てながら、ゲートやショーウィンドウを突き破り、建物の中へと突っ込んで行く。 しかし、さすがの大型バスも、耐震性を高めたビルには勝てず停車した。 奇跡的にその構造が、段階的なクッションとなり、軽傷者のみで騒動は収まったのである。 「乗客全員を逃さない様に! 必ず犯人がいるわ」 死傷者なしでホッとする皆んなに、喝を入れる咲。 元より税関の入国、帰国手続きや荷物もあり、逃げる者はない…と思えた。
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